2020年の新型コロナウイルス感染症の流行による余波は人々に「巣ごもり」という過ごし方を与えまし。休日は自宅から出ず、配信サービスやゲームを楽しむといった人は、コロナ禍が落ち着いた今もまだまだ多いのではないでしょうか。
巣ごもりの増加はECサイトの普及を後押しし、そして自然発生的に「クイックコマース」という概念が発生しました。これは文字通り、非常に早い時間で顧客に商品を配達するサービスで、日本でも「Uber Eats」「Walt」といったサービスが普及しています。
今回取り上げるZeptoは、わずか10分で食料品配達を行うインドのクイックコマース企業です。
1. 概要|Zeptoとは
Zeptoは、インド最大級のデリバリーサービスを提供する企業です。
2024年6月にはシリーズFラウンドを迎え、6億6500万ドルの調達に成功しました。
https://www.cooley.com/news/coverage/2024/2024-07-22-zepto-raises-665-million-series-f
Zeptoの強みは、わずか10分以内という超高速配達です。これを支えるのが7都市200地点に存在する「ダークストア」という配送拠点で、効率的な商品管理によって注文を受けてからすぐに商品をピックし、配送することができます。
その配達スピードと幅広い商品ラインナップから、コロナ禍によって増えた巣ごもり需要にジャストフィット。若年層を中心にサービスの利用が拡大しています。
Zeptoは創業した2021年からたった3年で評価額36億ドルにまで急成長を遂げました。
2. 企業概要|Skeleton Technologies
法人名 | Zepto |
ファウンダー | Aadit PalichaKaivalya Vohra |
HPリンク | https://www.zeptonow.com |
設立年度 | 2021年 |
資本金 | – |
売上 | ₹2,024cr ($240 million)https://entrackr.com/2023/10/zeptos-revenue-grows-14x-to-rs-2024-cr-in-fy23-losses-up-by-3x/ |
本社所在地 | Mumbai, India |
従業員数 | – |
ミッション | かつてないほど迅速な配達を実現 |
3. 創業の経緯、ファウンダーBIO|Zepto
Zeptoは、2021年Aadit PalichaとKaivalya Vohraの若き2人によって設立されました。彼らは幼い頃から友人で、共にスタンフォード大学に合格します。大学ではコンピュータサイエンスを専攻する予定でしたが、コロナ禍のロックダウンを機にギャップイヤーを取得。インドに帰国して、今のZeptoの核となる小さな配達ビジネスを開始しました。
このビジネスは、ロックダウン中に生活必需品をECで注文した際に、商品が届くまでに2-3日かかることに対して非常に「イライラ」していたことから思いついたそうです。(参考)
PalichaとVohraは3か月にわたってこの小さなビジネスをムンバイ中に売り込み、さらにスタートアップ・アクセラレーターの起業家プログラムにも参加しました。彼らは、配達サービスの成功にはサプライチェーンと顧客体験が非常に重要であることを学びました。
現在では「かつてないほど迅速(=”zeptosecond”)」な配達によって顧客体験を高めることにより、Zeptoはインド内で高いシェアを獲得するに至っています。
4.過去のラウンド概要
Zeptoはこれまでに合計で5億ドル以上の資金を調達しています。
調達資金は配送網拡大やダークストアに使用されます。
ラウンド名 | 時期 | 調達額 | 参加投資家 |
Series E | Nov 07, 2023 | Goodwater Capital, Nexus Venture Partners, Mangum, 等 | |
Series F | Jun 21, 2024 | $3.6B | Lightspeed Venture Partners, avra, Glade Brook Capital等 |
Series G | Aug 29, 2024 | General Catalyst, Epiq Capital Advisors, StepStone Group等 |
5.ビジネスモデル|Zepto
Zeptoが「小さなビジネス」から大きく成長するために採用したモデルは、下記の様なものになります。
配達特化の店舗であるダークストアを自社で構え、注文を受けた際に必要なだけ瞬時に(60秒以内に)配達できる仕組みを構築しました。
KiranaKart時代のデータから、配達の平均距離が1.7~2kmの場合は10分以内に配達できることがわかったことから、それに基づいてダークストアを配置しました。これにより、ダークストア網が張られている範囲内であれば、どこでも10分以内に配達を完了することができるようになります。(参考)
6.競合との差別化ポイント|Zepto
インドのクイックコマース分野は、競争が激化しています。
この分野の市場はロックダウンが解除されてなお成長を続けており、2027年までに21億ルピーにまでのぼると予想されています。(参考)
これは以前と比較しての巣ごもり需要の高まりが影響しているでしょう。多くの人が、何かしらのクイックコマースの利用経験があるはずです。
インドにおけるクイックコマースのプレイヤーはBlinkitやInstamart、BBnowなどが参戦しており、ユーザーの需要増加に呼応して企業側のシェアの奪い合いも過熱しています。
こうした激戦区の中で競合優位性を獲得するために、Palichaは顧客体験とそれを高めるアイデア・テクノロジーに注目しました。
ダークストアもそうしたものの一つです。ストアというよりも倉庫と言うべきそれには、仕入れ数を決定する予測アルゴリズムや、欠品に備えた自動在庫補充システムが採用されているそうです。Zeptoは、利用者のニーズを的確に押さえながら、若年層を中心にシェアを伸ばしています。(参考)
7.筆者コメント
ここまで、インドのユニコーン企業”Zepto”について、概要を交えながらまとめてきました。調査をした上での筆者の見解は以下となります。
・高い即配力を持つ超クイックコマース。しかし、課題も
注文して10分以内に配達が完了するそのスピード感は、現在サービス提供されているクイックコマースの中でもトップクラスの早さです。こうしたサービスの顧客体験は「届くまでの早さ」が評価の多くを占めるため、タイパを重視する若い層から多く支持されているのにも納得です。「ダークストア」を中心とした配送インフラの整備は、業界の最先端を進んでいると思います。
しかし、クイックコマースには懸念や反対意見も見られます。高い即配力の保証の裏には、配達を担当するギグワーカーの存在が不可欠ですが、急ぐあまり交通ルールを乱したり、事故を起こしてしまったり、といった交通への影響は考慮しなければなりません。PalichaもTwitterで安全性に対する批判を受けていたそうです。(参考)
いち利用者としては配達スピードを求めたくなりますが、社会的影響への対策にも注目していきたいですね。
参考文献
- Zepto, a 10-minute grocery delivery app in India, raises $60 million
- How two 19-year-old Stanford dropouts founded Zepto
- Zepto Raises $665 Million Series F
- Tracxn
- インドのユニコーン1号(2023)は、ジョブズに感銘を受けた「Zepto」
- How dark stores are powering growth of quick commerce players
- 19歳コンビが設立した印クイックコマース新興「Zepto」、評価額5700億円の実力
- ‘Another point..’: Anand Mahindra responds to Zepto’s stance on 10-minute deliveries