世界中に業務効率化ツールサービスを提供する会社は存在しますが、その中でもWork OSの領域でプレゼンスを示しているのが、イスラエル発のMonday.comです。直近で上場したその事業内容を紹介していきます。
1.サービス概要
monday.comは、クラウドベースの「Work OS」を提供しています。Work OSとは企業内のチームが、プロセスやプロジェクト、日常業務を管理するためのワークフローアプリケーションを短時間で構築することができるプラットフォームです。
– サービス概要
monday.comが提供するのは会社名と同名のMonday.comというSaaSです。monday.comは視覚的で直感的に使えるのでトレーニングの必要がなく、どんなユーザーでも簡単に使うことができます。また、チームの実例に基づいた200以上のテンプレートから選ぶことで理想のワークフローを数分で作ることができます。
グループ、タスク、サブアイテム、更新により、ワークフロー、プロセスなど、すべてが実際のプロジェクトのコンテキストに沿ってリアルタイムで同期されます。さらにその更新がすべて一元管理されるため、以下のような視覚インターフェイスで全ての稼働状況の把握が容易になります。
会社HPより
かんばん、カレンダー、タイムライン、ガントチャート、マップ、フォーム、ワークロードなどデータの表示形式をみたい形に変換できます。
ルーチンワークの自動化も必要とせず簡単かつ短時間で設定できます。
Slack, Google Drive, Linkedinなどの業務で使用している既存ツールとの統合も数回のクリックで実現できます。
– 誰のどんなペインを解決しているのか?
コロナ禍によるリモートワークが進む中、企業内のチームが生産的に活動するための視覚的・直感的なWork OS (コラボレーションツール)を提供しています。
– 価格感やどんな市場に対してのソリューション
個人利用の無料プランを初め、ベーシック、スタンダード、プロ、エンタープライズと5つの異なるプランを異なる価格帯で提供しています。これにより企業の規模を問わず全ての企業にとって導入しやすいサービスとなっています。
(HP価格・プランより)
2.企業概要(2021年8月時点)
法人名 | monday.mom Limited |
ファウンダー | Eran Zinman, Roy Mann |
HPリンク | https://monday.com |
設立年度 | 2012年2月 |
資本金 | – |
年間経常利益 (ARR) | $236 M |
本社所在地 | テル・アビブ、イスラエル |
従業員数 | 799 |
主要投資家一覧 | Zoom, Salesforce Ventures, Entrée Capital, Insight Partners, HarbourVest Partners, Hamilton Lane, Vintage Investment Partners, Sapphire Ventures, ION Crossover Partners |
ミッション | 顧客自らにワークソフトウェアを創造する力を与える |
Crunchbase, Craft.co、企業IR情報、nocamelsより筆者作成
3.創業の経緯、ファウンダーBIO
CEOの一人であるRoy Mann氏はイスラエルのIDCヘルツリーヤでコンピュータサイエンスの学位を取得しています。また、米ペンシルバニア州のリーハイ大学、イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学でコンピュータ関連のコースを修了しています。ベン=グリオン大学では電気工学を専攻していました。
彼は1996年にFinjan Holdingsでweb開発者としてキャリアをスタートさせます。その後2010年5月にはWix.comのCTOに就任します。彼はここで起業家としてのキャリアに強い興味を持ち、友人であったモバイル企業Conduit MobileのEran Zinmanに声をかけ2012年にDapulse(現monday.com)を立ち上げます。2014年初めにタスク管理とボードなどの機能を提供する製品をリリースした後に、2017年に社名をmonday.comに改めました(イスラエルでは日曜日から仕事がスタートするが、海外の顧客を意識しmonday.comにしたという)。(Yahoo Newsより)
Roy Mann氏は自身が得た富や知見をコミュニティに還元することにも積極的でイスラエルのさまざまなスタートアップに投資したり、ゲームソフトウェアの開発に興味を持つ若者のチューターもしています。彼自身もゲーム開発に意欲的でSave the Alienというオンラインソーシャルゲームを考案したりもしています。
(Money Incより筆者作成)
4.過去のラウンド概要
monday.comの過去のラウンドは以下の表のようになります。2012年2月の創業から半年後に$1.5 MのSeedラウンドで資金調達をしています。その3年後、Series Aで$7.6 Mを調達して以降はほぼ毎年資金調達に成功しバリュエーションを上げていき、2021年6月にはNasdaqに上場し$7.5 Bのバリュエーションを達成しています。資金調達の様子から当社の順調な成長ぶりが伺えます。会社・チームのプロジェクト管理が視覚的・直感的にできるSaaSはリモートワークが進む昨今需要が着実に伸びている分野で投資家がかける成長期待も高いと考えられます。
初期ラウンドの投資会社の1つGenesis Partnersはニューヨークに拠点を置く、主にデジタル・IT分野に特化したベンチャーキャピタルです。もう一方のEntree Capitalはロンドン、ヘルツリーヤ(イスラエル)などに拠点を置ベンチャーキャピタルで彼らのポートフォリオには写真共有アプリで有名な米Snapchat、オンライン決済の米Stripeなども含まれます。
2019年7月のシリーズDラウンドでSappire Venturesなどから合計$150 Mを調達しバリュエーションが$1.9となりユニコーンの仲間入りを果たしています。2021年6月にNasdaqに$7.5 Bのバリュエーションで上場しています。上場時の資金調達ではSalesforceやZoomなどのSaaS企業が参加しています。Monday.comは現在Zoom会議と連携しており優れたユーザビリティを顧客に提供しています。(参照)
monday.comの株価(Nasdaq: MNDY)は同社の2021年第二四半期の好成績を受けて2021年8月現在で上場時の2倍に高騰し、時価総額は150億ドルを超えています。ファウンダーのRoy Mann氏がかつてCTOを務め、monday.comの初期の主要顧客でもあったWix.comの株価(Nasdaq: Wix)が同社2021年第二四半期の不振を受けて115億ドルまで減少しているため、現時点でmonday.comはファウンダーの古巣でありパートナーであった大企業を追い越した形となります。
ラウンド名 | 時期 | 調達額 | バリュエーション | 参加投資家 |
Seed | Aug 2012 | $1.5 M | – | Genesis Partners, Entree Capital |
Series A | Aug 2015 | $7.6 M | – | Genesis Partners, Entree Capital |
Unattributed | May 2016 | $7.6 M | – | Genesis Partners, Entree Capital |
Series B | Apr 2017 | $25 M | – | Insight Venture Partners |
Series C | Jul 2018 | $50 M | $500 M | Insight Venture Partners, Stripes Group, Entrée Capital |
Series D | Jul 2019 | $150 M | $1.9 B | Sapphire Ventures, Vintage Investment Partners, HarbourVest Partners, Hamilton Lane, ION Crossover Partners |
Post-IPO Equity | Jun 2021 | $150 M | $7.5 B | Salesforce Ventures, Zoom |
Craft.co, Crunchbase, nocamelsより筆者作成
5.業界の動向、分析
チームコラボレーションのためのソフトウェアのグローバルでの市場規模は2020年で104.8億円でした。2021年から2028年にかけて年平均成長率13.0%で推移すると予想されます。COVID-19の世界的流行による情勢も同市場の成長を後押ししています。
また、monday.comやAirtableなどの新たなソフトウエア企業の台頭により「Work OS」という新たなソフトウェアカテゴリーが登場しています。Work OSとは、チームがプロジェクト計画、実行、進捗管理、処理などを1プラットフォームで行うためのSaaSの1種です。チームが部門を超えて、またパートナー企業と協力する際に使われます。(参照)
Work OSは企業規模(スタートアップ、中小企業、大企業)に関わらず全ての企業での導入が可能です。(参照)
6.競合との差別化ポイント
monday.comとWork OSにおける競合をまとめた表は以下となります。
会社名 | monday.com | Smartsheet | Asana | Wrike | Airtable |
本社所在地 | テルアビブ・イスラエル | ベルビュー・アメリカ | サンフランシスコ・アメリカ | サンノゼ・アメリカ | サンフランシスコ・アメリカ |
タイプ | Public | Public | Public | Subsidiary | Private |
創業年度 | 2012 | 2005 | 2008 | 2003 | 2012 |
主要地域 | イスラエル、アメリカ、オーストラリア他 | アメリカ、オーストラリア、アイルランド他 | アメリカ、オーストラリア、カナダ、フランス他 | アメリカ、オーストラリア、アイルランド、日本他 | アメリカ他 |
従業員数 | 799 | 1,801 | 910 | 1,016 | 575 |
導入企業数 | 2,137 | 13,950 | 11,607 | 5,983 | 4,951 |
資金調達額 | $241.7 M | $113.1 M | $413.2 M | $26 M | $625.6 |
バリュエーション | $15.4 B | $9.2 B | $12.2 B | – | $5.8 B |
Craft.co, HG Insightsより筆者作成
monday.com以外の企業は全てアメリカの企業です。monday.comを含む全ての企業がアメリカ、オースラリア、ヨーロッパなどの先進国を中心に事業を展開しています。Smartsheet、Asana、Wrikeなどの古参企業と比較するとmonday.comの従業員数、導入企業数はそれほど多くありません。しかし、バリュエーションは最も高く154億ドルとなっています。
monday.comのように進捗管理画面を複数の異なる形式(かんばん、カレンダー、タイムライン、ガントチャート、マップ、フォーム、ワークローなど)で表示できるというのがこの種のソフトウェアの標準仕様のようです。Smartsheetは4つの表示画面、Asanaは6つの表示画面、Airtableは5つの表示画面を備えています。既存の主要アプリ(Slack、Google、Microsoftなど)と統合できる特徴も各サービスに備わっています。
主要顧客も各社で棲み分けができているようで、monday.comはHulu、eBay、the BBC、PayPalなど、AirtableはBoxやExpediaなど、SmartsheetはNetflix、Cisco、Hiltonなど、WrikeはGoogleなどで利用されているようです。また、Airtable以外の企業は日本語のサービスページがあります。
monday.comの強みは、会計、プロジェクトマネジメントなどいずれのケースで導入される場合でも、必要昨日が全てワンパッケージに備わっているというところにあります。競合他社は程度の違いはあれど一部の特徴や機能の提供に留まってます。いかなるセグメントのユーザーでも使えるパッケージを提供することで顧客のジャンルを選ばず幅広い顧客層にリーチできるのがmonday.com最大の強みと言えます。市場の期待感も高く75億ドルのバリュエーションで上場した後、株価は現在倍に跳ね上がり時価総額は現在150億ドルを超えています。
7.筆者コメント
◆視覚的・直感的な進捗管理ツール
チーム内のタスクの進捗管理を6つ異なる視覚インターフェイスで表示できる機能備えることでどのような部門・業種のどうような職責のユーザーにとっても使いやすいサービスとなっています。
◆会社規模を問わない料金プランリスト
フリープランからエンタープライズプランまで会社の規模・ステージごとに使いやすいプランを網羅的に提供することで全ジャンルの企業への導入に成功しています。彼らが開発したツールが全ての企業にとって使いやすいものだという確信の現れと言えます。
◆既存ツールとの融合
Slack、Google、Microsoftなど既にデファクトスタンダードとなっている業務ツールとのコラボレーションを図ることで全ての企業にとって導入障壁を下げています。
2012年のシードラウンドから2015年のSerie AラウンドまではProduct Market Fitができず苦しんでいたようですが、Product Market Fit以降は自身のプロダクトに対する強い自信とともに着実に成長し、今やWork OS分野を代表する大企業に成長しています。イスラエル出身企業で3番目の時価総額となったmonday.comの今後の活躍に期待が膨らみます。
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