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イスラエル発のデータストレージスユニコーン、Indinidat:海外ユニコーンレポート

2021年8月17日

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イスラエル発のデータストレージスユニコーン、Indinidat:海外ユニコーンレポート

インターネットによって世界といつでもどこでも繋がることができるようになり、データ通信や移動も容易になりました。

しかし、便利になった反面、次のような課題が出てきました。例えば、1) データストレージ(保存場所)をどのように効率的かつ余裕をもって管理するか2) サイバー攻撃に対して強い体制をどのようにして作るか等の課題です。

今回は、そんなデータストレージやセキュリティに焦点を当て、イスラエル発のデータストレージスタートアップであり、かつユニコーン企業ともなっているInfinidat(インフィニテダット)を紹介していきます。

1.サービス概要

Infinidatは、学習し進化する拡張性に優れた企業向けストレージサービスを提供しています。ペダバイト1規模のデータをサイバー攻撃から保護・復旧するためのソリューションも提供しています。

– サービス概要

Infinidatが提供する主なサービスは以下の表のようになります。

サービス解決する問題解決方法
InfiniBoxずらりと並んだストレージや無計画に広がっていくファイル何列もの旧来の企業用ストレージ床を日常的に1個のInfiniBoxに統合
InfiniBox SSA
(InfiniBoxの上位機種)
企業ストレージにおいてサブミリ秒以下の低レイテンシという厳格な性能が要求される– SSD2とは桁違いに高速なDRAM3– InfinidatのNeural Cache深層学習アルゴリズム
InfiniGuard高度なサイバー攻撃やランサムウェアは、バックアップソリューションやストレージをも標的とし、データ復旧が困難– 削除、暗号化、変更ができない不変のスナップショットでバックアップを保護するサイバーリカバリー機能

InfiniBoxは、IT企業機関や管理サービスプロバイダ向けのペタバイト規模のデータストレージサービスです。柔軟で、ソフトウェア定義のサービス品質、メインフレーム級の信頼性により、安全/伸縮自在/効率的なストレージインフラ上で、開発/テスト負荷をかけながら企業の命綱である主要アプリケーション(LOB4)をノンストップで走らせることができます。(企業HPより)

– 誰のどんな問題を解決しているのか?

膨大な量のデータを保有する企業にとってデータストレージがフロアを占める面積は日々増えていきます。さらに、多くの場合これらのデータは非構造化データとして非効率に蓄積されていきます。Infinidatのフラッグシップ製品であるInfiniBoxは、これらペタバイト級のデータを42Uシングルラック1つで取り扱うことができます。また、Software Defined Storage (SDS)によってユーザーフレンドリーな機能拡張を実現しています。

(企業HPホワイトペーパーより筆者作成)

– 価格感やどんな課題に対してのソリューションなのか?

Infinidatには、「世界トップクラスの発明家やイノベーターが集結」しています。「信頼性と統合性に関する実証済みのアプローチと、性能や使いやすさを高めるための新たなアプローチとの組合せによって、強固な技術基盤を持つチームと、信頼性の高いエンタープライズストレージのための基本要件に根ざしながら、最先端のイノベーションを取り入れたソリューション」を提供しています。

「ストレージ業界で何十年もの経験を持ち、先行製品を成功させてきたINFINIDATチームは、最高ランクの可用性を最低ランクのコストで実現しながら、より良くより迅速にマルチペタバイトのデータを保管し保護できる方法を開発してきた実績により、業界のリーダーの地位」を手にしています。

(https://www.neutrix.co.jp/index.php/about_infinidat/)

[注釈]

11ペタバイトは1ギガバイトの100万倍。

2SSD…Solid State Driveの略。ハードディスク(HDD)と同様の記憶装置で、一般的にHDDより衝撃に強く、データの読み書き速度が速い。

3DRAM… Dynamic Random Access Memoryの略。メモリに電気が流れている間だけデータの記憶が行われ、通常パソコンのメインメモリに使われる。通常、SSDやHDDよりも読み書きの速度が早いとされる。

4LOB… Line of Businessの略。企業が業務をする上で主要な、基幹アプリケーションを1つのシステムに統合したもの。ソフトウェアそのものやその運用を指して言うことがある。(https://boxil.jp/mag/a3550/)

2.企業概要(2021年6月30日時点)

法人名Infinidat
ファウンダーMoshe Yanai
HPリンクwww.infinidat.com/ 
設立年度2011年
資本金
売上
本社所在地ヘルツリーヤ、テルアビブ、イスラエルウォルサム、マサチューセッツ、アメリカ
従業員数405人
主要投資家一覧Goldman Sachs, TPG Growth, Security Growth Partners, Claridge Israel, Moshe Yanai, ION Crossover Partners,GS Growth.
ミッションペタバイト時代において、顧客が効率的にビジネスできるようにサポートすること。

Boltホームページ、LinkedIn、Crunchbase, Craft.coより筆者作成

3.創業の経緯、ファウンダーBIO

InfinidatのCEO、Moshe Yanaiは1975年にテクニオン – イスラエル工科大学を卒業し電気工学の学位(学士)を取得しました。その後は、CDC5にてミニコンピュータディスクを基にしたIBM互換のメインフレームストレージを開発に携わりました。そして、Nixdorf6にてハイエンドストレージシステムを開発し、1980年代後半にEMC7に参画し、Symmetrix(今日のDMXシリーズ)の開発チームをリードします。EMCのSymmetrixグループのバイスプレジデントとして、EMCの企業向けストレージの全ハードウェア・ソフトウェア製品のデザイン、開発の責任者となりました。Yanai氏のリーダーシップのもと1987年に従業員1人だったEMC Symmetrix グループは従業員3500人超の企業に成長します。彼は現在、40を超える画期的なストレージハードウェアやソフトウェア関連技術の特許を保有しています。

(CrunchBasezdnetより筆者訳)

Infindat創業前にもXIVというメインフレーム用のストレージアレイの会社を立ち上げIBMに売却しています。

(https://www.zdnet.com/article/storage-q-a-infinidat-ceo-moshe-yanai/)

長年ストレージ業界に携わってきたYanai氏ですが、IDCとの対談にて彼が「我々は膨大な量のデータを保存できるようになったが、そのわずか5%しか利用できないでいる。そして、これに対してのソリューションはない。」と語ったことが印象的でした。

この解決策を考えていた彼は、可用性とコストの問題に突き当たります。

そこでYanai氏はぺタバイト級の超大規模データ(ビックデータ)に特化したシステムを構築する解決策を考え、それが今日のInfinidatに繋がっています。

(https://www.zdnet.com/article/storage-q-a-infinidat-ceo-moshe-yanai/)

[注釈]

51960年代のアメリカを代表するメインフレーム、スーパーコンピュータの企業。

6ドイツのコンピュータ企業。Siemens等による買収の後、現在はDiebold Nixdorfと社名を変え、銀行・小売店のデジタル化を促進するシステムを開発。

7アメリカ・マサチューセッツに拠点を置くストレージに特化したIT企業。2016年にDellによって買収された。

(https://techcrunch.com/2016/09/07/67-billion-dell-emc-deal-becomes-official-today/)

4.過去のラウンド概要

Infinidatは2013年から2020年までの7年半の間に計4回の資金調達を実施しています。シリーズB(2015年4月)で早くもバリュエーションが12億ドルに到達しユニコーンの仲間入りを果たしています。シードラウンドは実施せずシリーズAでいきなり8000万ドルもの高額を調達していることに注目です。2018年から2020年にアメリカで実施さえれたシリーズAの調達額の中央値が860万ドルである(https://www.idaten.vc/post/シリーズaの相場観)ことからもその額の高さが伺えます。Infinidat創業までにストレージ業界で30年以上の経験を積んできたYanai氏に対する投資家の期待値が高かったということでしょう。シリーズB以降のラウンド全てにTPG Growthが参加しており、Goldman SachsもシリーズC以降参加しています。GS Growthはゴールドマンサックスの投資部門で高成長が期待されるスタートアップに$20-250 million規模の投資を行っています。(https://www.goldmansachs.com/what-we-do/asset-management/gs-growth/index.html)

ラウンド名時期調達額バリュエーション参加投資家
Series AJan 2013$80 mSecurity Growth Partners
Series BApr 2015$150 m$1.2 bTPG Growth
Series COct 2017$95 m$1.6 bGS Growth,TPG Growth
UnattributedJun 2020Goldman Sachs,TPG Growth,Claridge Israel,Moshe Yanai,Ion Crossover Partners

Craft.coCrunchBaseより筆者作成

5.業界の動向、分析

下表のIDCの調査によると2021年第1Qで世界の企業向け外部OEMストレージシステム市場の総収益は66.9億ドルでマーケットシェア一位はDell Technologies(32.3%)でした。その後に、NetApp(10.9%)、HPE/H3C(9.4%)、Hitachi(5.8%)、Huawei(5.5%)と続きます。

eWEEKによる2021年の報告では、Infinidatは上記企業に続きシェアTOP10以内に入っています。また、企業向けデータストレージの市場ではベンダーの信頼性が重視され、ほとんどの企業が効率性の観点からもともと付き合いのあるベンダーから製品を購入する傾向にあるようです。全てのデータストレージ企業が製品のセキュリティ性能強化に注力しており、AIの導入や自動化、マルチレベルセキュリティなどが市場でのトレンドのようです。

6.競合との差別化ポイント

Infinidatとその競合をまとめた表は以下となります。

会社名InfinidatDataCore SoftwareNexenta SystemsQumuloWeka.IO
本社所在地ウォルサム、アメリカフォートローダーデール、アメリカサンタクララ、アメリカシアトル、アメリカキャンベル、アメリカ
創業年20111998200520122014
オフィス14カ国7カ国1カ国1カ国2カ国
従業員数40528265446134
主要パートナーAmazon Web Services, IBM, Microsoft等Cisco, Dell, Microsoft等 VMware, CIsco, Oracle等HPE, Fujitsu, Amazon Web Services等Amazon Web Services, HITACHI, HPE等
資金調達額$325M$95M$141.5M$347.3M$73.7M
バリュエーション$1.6BN/AN/A$1.2BN/A

Craft.co, 企業HPより筆者作成

先述のように企業向けのストレージサービスを提供する会社は大企業をはじめ多く存在しますが、ここではInfinidatと資金調達規模が似通った非上場企業(あるいは子会社)を競合として抽出しています。Infinidatの出自はイスラエルのヘルツリーヤですが、アメリカのウォルサムに本社機能を置いているようにアメリカを中心にビジネスを展開しているようです(ヘルツリーヤとウォルサムの2箇所とも本社という位置付け)。さらに日本の千代田区にもオフィスを置いています。創業年や資金調達額などInfinidatと似通うところの多いQumuloですが、Qumuloとしてのオフィスはシアトルのみに置き、アジア地域をはじめとする海外展開はHPEとパートナーシップを組んでいます。Qumuloは2017年からのHPEとの提携により100カ国以上でサービスを提供しています。(https://qumulo.com/blog/qumulo-hpe-global-presence-apac/)。

InfiniBox(Infinidatのフラッグシップ製品)の強みの1つとして、80件以上の取得済み特許をベースとするソフトウェア定義型(SDS)ストレージが挙げられます。SDSとは、ストレージなどハードウェアを管理するためのソフトウェアのことです。従来型のストレージではハードウェアとソフトウェアが一体となっているため実装後の機能拡張が困難でした。しかし、SDSではソフトウェアがハードウェアから分離されているので、「必要なストレージ容量を必要なタイミングで自由に拡張することができます。また、計画に応じて、いつでもアップグレードやダウングレードが可能であり、極めて柔軟性に富んでいることも特徴です。」(https://infinidat.nissho-ele.co.jp/580/)

また、主要コンポーネントに対して2冗長構成(稼働中のハードウェアとは別に2台の予備機を用意しておく構成)を採用しダウンタイムやデータロスを防止しています。これによりセブン・ナイン(99.99999%)のアップタイムを実現しています。つまり、1年間の稼働中停止時間はわずか3.15秒という計算になります。

さらに、「InfiniBoxは事前処理(パターン削除、圧縮、暗号化など)なしですべてをDRAMに書き込むことができ、外付けのフラッシュデバイスの代わりにDRAMから書き込み(CPUに直付け) できるようにすることで、(中略)遅延を最低に抑えて書き込みを完了できます。」また、データの読み取りに関してもNeural Cacheという独自の機械学習アルゴリズムを用いてデータの全てをDRAM速度で読み取ることができます。(https://www.infinidat.com/ja/media/78)

SDS技術は近年普及してきておりQumuloをはじめとする競合企業でも導入されています(参照)。しかし、Infinidatの優位性はやはり特許数の多さでしょう。以下の表にInfinidatとその競合企業の特許出願数及び登録数をまとめています。どの競合企業も特許登録数が20件前後に留まるのに対しInifindatはその4倍を超える87件の登録特許を保有しています。特許という観点から自社の競合優位性を確保できていると言って良いでしょう。

会社名InfinidatDataCore SoftwareNexenta SystemsQumuloWeka.IO
検索出願人名INFINIDAT LTDDATACORE SOFTWARE CORPNEXENTA SYSTEMS INCQUMULO INCWEKA IO LTD, WEKA IO, WEKAIO LTD
特許出願数10319332427
特許登録数8719202112

*Espacenetの検索結果を元に筆者作成 (2021年7月18日時点)。

7.筆者コメント

◆ビッグデータ時代のキープレイヤー

AI、IoTがテック業界のトレンドになっていますが、それらが蓄えたデータを効率的に運用するための「ストレージ」というところにまでは中々関心が届きません。しかし、データを蓄えるだけでは価値が生まれないのは明白で、ファウンダーのYanai氏が語るようにそれをどのように効率的に使うかの「可用性」に注目することが重要です。そして、それを現実的なコストで実現するための「価格破壊」を起こす。Infinidatは、ペタバイト級のデータを99.99999%の可用性で運用するソリューションを低価格で提供することで、ビックデータ時代の荒波に確実に錨を下ろしている企業と言えるでしょう。

◆80件を超える特許に基づく優位性

Infinidatの強さはやはり特許に裏打ちされた技術力です。スタートアップとしては群を抜く80件以上の特許で競合優位性を築いています。これもIT・ストレージ業界で40年を超えるキャリアをもち、自身でも40件を超える特許を保有するYanai氏がリードするチームだからこそなし得ることでしょう。

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