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エストニアのフィンテックユニコーン企業 「Wise」

2023年5月4日

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エストニアのフィンテックユニコーン企業 「Wise」

国際送金の手数料ほど、無駄な出費もないのではないでしょうか。国内銀行の手数料相場を調べてみると、安くても3000円前後。高いところでは6000円-7000円する銀行もあります。送金の度にこの金額を払うなんて、馬鹿らしいものです。

この問題に着目し、画期的なソリューションを生み出したのが、エストニア人初のフィンテック・スタートアップ、Wiseです。

1. サービス概要|Wiseとは

Wiseは、ロンドンを本拠地とする、P2P送金サービスを提供する企業です。メインとなる国際送金サービス「Wise」を始めとして、マルチカレンシー口座、デビットカード、法人用アカウントなどを提供しています。2013年にピーター・ティールらが600万ドル、14年にリチャード・ブランソンらが2,500万ドル、15年にアンドリーセン・ホロウィッツらが5,800万ドルを調達し、今ではユニコーンの一角を成す、世界でも有数のフィンテック・スタートアップへと成長しました。

国際送金サービス「Wise」では伝統的な国際送金とは異なり、利用者同士のマッチングを図ることで少額のコミッションによる送金を可能にしています。両替は公平性が担保されたインターバンクレートで行われ、為替手数料は発生しません。

これにより、銀行を利用して国際送金をするより、はるかに安い手数料で国際送金をすることが可能となっております。また、さらに、どのようなプロセスを経て、どの程度の手数料が掛かっているかも細やかに情報公開されており、透明性の高い送金も実現されています。

2. 企業概要|Wise

法人名Wise
ファウンダーKristo KäärmannTaavet Hinrikus
HPリンクhttps://wise.com
設立年度2010年
資本金
売上397.4万ポンド(2022)
本社所在地London, England
従業員数
ミッションより安く、早く、透明性が高い海外送金
筆者が調べて記載

3. 創業の経緯、ファウンダーBIO|Wiseの歴史

Wiseの歴史は、ある2人のエストニア人の原体験から始まりました。同社のCEOであるKristo Käärmannは、かつてSkypeの社員だった時代ロンドンで生活をしていました。彼の生活の基盤には英ポンドが使われていましたが、給与はユーロで支払われていたのです。

Wiseの共同創業者Taavet Hinrikusは、同時期にロンドンにてDeloitteに務め、英ポンドで給与を受け取っていましたが、彼はエストニアの住宅ローンを支払うため、ユーロを必要としていました。

彼ら2人は、最初こそ銀行で海外送金をしていましたが、その法外にも思える高い手数料と、不利な為替レートに悩まされ、いつしかもっと良い送金方法が必ずあるはずだと感じるようになりました。そして、2人の間で多くの話し合いを重ねた末、画期的でシンプルな解決方法にたどり着いたのです。それは、お互いの支払いを肩代わりするというもの。

Wiseは成長と共に事業を拡大し、送金システムとしての「Wise」の提供に加え、マルチカレンシー口座やデビットカードの取り扱いも開始しました。

現在は750以上の送金ルートに対応をしており、400万人を超えるユーザーが一月当たり合計約40億ドルの送金をする巨大な送金インフラへと成長しています。

4.ビジネスモデル|Wise

Wiseの収益モデルで特筆すべきポイントは、その送金システムの仕組みにあります。

従来の国際送金は、送金人から受取人へ直接送金し、仲介する銀行が手数料を徴収する仕組みとなっています(SWIFT送金)。この送金方法では、高すぎる手数料と、送金完了までにかかるタイムラグが問題となります。

Wiseでは、その代わりに双方向のニーズをマッチングさせ、受取人の口座が存在する国家間で送金を完結させてしまうのです。

例えば、日本のユーザーとイギリスのユーザーがマッチングした場合、日本のユーザーが持つ日本円でイギリスのユーザーの決済を賄い、イギリスユーザーが持つ英ポンドで日本のユーザーの決済を賄うのです。このような体制を取ることで「両替」というプロセスを挟むことなく双方の決済を完了させることができます。

これにより、従来の国際送金にかかる大きな手数料を回避しながら安全に送金をすることが可能となり、またすぐに必要な通貨を受け取れるようになります。このシンプルながら画期的なシステムで、Wiseは大きくユーザーを増やしていきました。

5.競合との差別化ポイント|Wise

同様のサービスを展開している企業として、最も有名なものがPaypalでしょう。言わずもがな国際決済サービスのパイオニアです。このサービスもまた、仕組みは異なりますが格安の手数料で(しかも多くの場合Wiseよりもお得な手数料で)海外への送金を可能としています。Paypalと比べ、Wiseが勝る長所は何でしょう。

これは「真に公平な為替レート」「取引の透明性の高さ」だと筆者は考えます。

国際決済サービスの多くは、両替の際に為替手数料を上乗せします。Paypalも例外ではなく、通常のレートに手数料として3%、または4%上乗せしたものを為替レートとして適用しています。これは果たして”公平”と呼べるのでしょうか。

Wiseの国際送金・決済では「実際の為替レート」が用いられています。これは、取引の仲介企業に中間搾取されることなく、”公平に”取引を進められることを意味します。利用者が知らず知らずの内に損をしてしまう、そんな状況をWiseは是としないのです。

またWiseは、取引の透明性の高さにも気を配っています。

同様の格安送金・決済サービスは、Paypalの他にSBIレミットwestern union等、国内外問わず多く存在します。これらのサービスと比較し、Wiseは取引のしくみや流れ、手数料の取り扱いなどを細かく公開しています。透明性が低く、どのような導線で送金がされるのかわからないサービスは、資金洗浄に使われてしまうリスクがあります(参考)。こうした危険性を排除し、安全で信用できる取引を実現するために、Wiseはこうした細かい部分にも配慮しています。

「公平に、安全に」取引を行う上で、Wiseは最も信頼できるサービスと言えるのではないでしょうか。

6.筆者コメント

ここまで、フィンテック・スタートアップ”Wise”について、サービスや競合について交えながらまとめてきました。調査をした上での筆者の見解は以下となります。

世の中に公平な取引を広める一助となるかもしれないサービスであること

世界には、不公平な取引で溢れていると筆者は考えます。発展途上国との農作物の不当なレートでの取引は有名な例ですが、国をまたがる小規模なトレードにおいても、不公平な取引は日々行われているのではないでしょうか。

世界各地で生まれている価値の不公平を是正し、真に正しい価値同士でトレードを行う。Wiseのフェアな為替レートと取引の透明性の高さは、それを実現するための第一歩となるのではないかと筆者は考えます。

近年はフェアトレードを始めとして、連帯経済の考え方を広める活動が、グローバル化を受けて増えてきました。Wiseのような、すべての人がフェアに経済活動ができるようなサービスが、今後も次々と生まれてくるのではないかと筆者は予想します。今後の動向に注目していきたいです。

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記者プロフィール
岩本晴空さん
株式会社FUNS所属。同社にてメディアライター、webデザイン等を経験。現在はVR×地域活性を主軸にした研究コミュニティを埼玉県加須市で展開している。 この記者の記事一覧