TOP

海外テック&スタートアップメディア クロスユーラシアmedia

twitter facebook note

インドスタートアップインド事情

Googleも直接投資しているインドローカルデリバリーアプリ「Dunzo」

2024年11月19日

この記事をシェアするtwitter facebook note

Googleも直接投資しているインドローカルデリバリーアプリ「Dunzo」

2000年代以降、スマートフォンを活用したライドシェアや配車サービスは、世界中で急速に普及しました。町中の自転車や自動車の利用をテクノロジーで効率的にしたことで、新しい生活のインフラとして進化しています。

インドでもこの流れは例外ではなく、人だけでなくモノの配達にも焦点を当てたサービスが拡大しています。その中でも特に注目されるスタートアップが、2015年創業の「Dunzo」です。

https://www.dunzo.com/bangalore

1.サービス概要

「Dunzo」は、ユーザーに代わって、その日の「やることリスト」に従い、食料品を受け取ったり、荷物を送ったり、薬局までひとっ走りしてくれたりするサービスです。

日常会話の中で「Can I send a dunzo to your place?(Dunzoで送ってもいい?)」と使われるほど、インドでは市民の生活に欠かせない存在になっています。

Nikkei Asia

Dunzoは、数千人のドライバーが所属しており、稲妻のロゴが付いたヘルメットをかぶった配達員が、ドライクリーニングの回収から、家に忘れたパソコンの充電器をオフィスに届けてくれるなど、基本的になんでも届けます。

使い方はとても簡単です。

  1. ピックアップ地点と届け先をアプリに入力。
  2. 料金を支払い注文を確定。
  3. ポーター(配達員)が指定した物品を取りに行き、届けてくれます。
https://www.dunzo.com/bangalore

現在、Dunzoは以下の主要都市で展開されています。

  • バンガロール
  • デリー
  • グルグラム
  • プネー
  • チェンナイ
  • ジャイプール
  • ムンバイ
  • ハイデラバード

2021年8月から、Dunzoは生活必需品の配達サービスを開始しました。果物や野菜、肉、食品、医薬品など、日常生活で必要な品々を迅速に届ける「クイックコマース」分野に拡大しています。

また、処方箋なしで購入可能な市販薬を自宅まで届けてもらえるのは、急な体調不良時に特に役立ちます。これにより、薬局に行く時間が取れない時や外出を控えたい状況でも安心して利用できます。

Dunzoの成功は、単にIT技術を活用しただけではありません。インド市場特有のニーズに焦点を当て、効率的な配達網と低コストを実現したことが大きな要因です。

モノの配達サービスは、顧客の細かいリクエストにも対応できる柔軟性が求められますが、これもシンプルなアプリ操作設計にすることで、ユーザーがストレスを感じることなく利用できます。

また、インドのような人口が多い大都市では、交通渋滞が日常茶飯事です。そんな中、迅速に物品を届けられるサービスは、個人だけでなく企業にとっても重要なインフラとなっています。そしてそれを低価格で質の高いサービスを提供することで、Dunzoは多くの顧客を獲得しています。

2. 企業概要(2024年11月時点)

法人名Dunzo
ファウンダーKabeer Biswas, Ankur Agarwal, Dalvir Suri, Mukund Jha
HPリンクhttps://www.dunzo.com/
設立年度2015
資本金
収益₹253Cr ($31.5M) as on Mar 31, 2023

https://tracxn.com/d/companies/dunzo/__bBcOxglkBJRJblRSZxPQVi_On2MzKK5a5Eblps1QFKk
本社所在地Bangalore, Karnataka, India
従業員数56 (2024年3月時点)
主要投資家一覧Google
ミッションすべての都市をアクセスしやすくし、地域商業を効率的にする
Dunzo HP, LinkedIn、Crunchbase, Craft.co, stockanalysis, Tracxnより筆者作成

3.創業の経緯、ファウンダーBIO

Dunzoは、Kabeer Biswas、Ankur Agarwa、Dalvir Suri、Mukund Jhaの4人によって設立されました。彼らの多彩なバックグラウンドが、Dunzoの成長の鍵となっています。

Kabeer Biswas:CEO

Dunzoの中心人物がKabeer Biswasです。28歳の時に「人々の時間を節約する」という目標を掲げ、Dunzoを立ち上げました。  

彼は、ムンバイ大学でエンジニアリングを専攻し、ナルシー・モンジー経営学院で修士課程を修了しました。  

その後、2007年、Airtelのプロダクトおよび営業マネージャーとしてキャリアをスタート。その後、Y2CF Digital MediaとVideocon Telecommunicationsで新規事業開発やプロダクト部門を担当します。

そして、2015年にDunzoを創業し、現在はCEOを務めています。

Ankur Agarwal:共同創業者

Ankur Agarwalは、IITルールキーでコンピューターサイエンスを専攻したエンジニアです。  

彼は、Googleで現在DunzoのCTOであるMukund Jhaと共に働き、後にHRテック企業「Filter」を設立。その後、Dunzoの共同創業者として参加しました。

Mukund Jha:CTO

Mukund JhaはDunzoの技術基盤を支えるCTOです。  

彼は、モチラル・ネール国立工科大学でコンピューターサイエンスを専攻し、コロンビア大学で修士号を取得。  そのあと、Googleのソフトウェアエンジニアとして活躍し、スタートアップWisdom.lyやHabetを設立。そして、2015年、Dunzoを共同創業しました。

Dalvir Suri:元共同創業者

Dalvir Suriは、ムンバイ大学で情報技術の学位を取得し、IBMでキャリアをスタートしました。  

彼は、アプリケーション開発やセキュリティ分野で経験を積み、Cybrilla Technologiesで運営責任者を務めた後、Dunzoを共同設立しました。2023年10月、財務上の課題や人員削減に伴い会社を退職しています。

Dunzo誕生のストーリー

CEOのKabeer Biswasは、ベンガルールへの引っ越し後、退屈な生活を送っていたようです。そこで「タスクリストを自動的に完了するサービス」という新しいビジネスアイデアを思いつき、自宅の一室を拠点にDunzoをスタートさせました。

最初はWhatsAppを使ったサービスとして始まりました。利用者はカビールにメッセージを送るだけで、彼がバイクでさまざまな用事を済ませてくれるという仕組みです。彼はNGOの一部スタッフをパートタイムで雇い、2015年6月には1日70件の配達を達成。この成功をきっかけに、サービスは大きな注目を集めました。

そして、2015年後半には初の大規模な資金調達に成功。

2016年には、WhatsAppベースの事業をアプリ化。これにより、サービスの効率性が飛躍的に向上し、共同創業者たちの技術力でアプリは大きな成功を収めました。

Dunzoは、創業以来大きな成長を遂げ、インドで最も有名なクイックデリバリーサービスの一つとなりました。その成功の鍵は、革新的なアイデアと、それを形にするための多様なスキルを持つチームの協力にあります。また、WhatsAppを使って小さくスタートし、検証したことも懸命な判断と言えるでしょう。(参考

4. Dunzoのビジネスモデル

Dunzoの収益モデルは、以下のような多様な要素で構成されています。

  1. サービス料金
    • ユーザーが注文時に支払う手数料。
  2. サブスクリプション
    • プレミアム会員向けの特別サービス。
  3. 広告とプロモーション
    • アプリ内での広告掲載やプロモーションの収益。
  4. パートナーシップ
    • 加盟店舗からの手数料収入。月間100万件の注文を処理し、30,000以上の加盟店舗と提携しています。

5. 過去のラウンド概要

ラウンド名時期調達額リード投資家
Apr 6, 2023Convertible Note – Dunzo$75MGoogle
Nov 30, 2022Debt Financing – Dunzo₹500MBlackSoil
Jan 6, 2022Series E – Dunzo$240MReliance Retail
Mar 30, 2021Series E – Dunzo$8MKrishtal Advisors, Ranjan Patwardhan
Jan 19, 2021Series E – Dunzo$12MAlteria Capital, Google
Sep 1, 2020Series E – Dunzo$28MGoogle, Lightrock
Feb 19, 2020Debt Financing – Dunzo$11MAlteria Capital
Oct 4, 2019Series D – Dunzo$45MLightbox
Aug 16, 2019Debt Financing – Dunzo$2.8MAlteria Capital
Jun 21, 2019Series C – Dunzo₹29.9MBelltower Fund Group
Crunchbaase, Tracxnより筆者作成

2018年にGoogleはDunzoに対して、インドのスタートアップとしては初めて、1230万ドル(約14億円)の直接投資を行っています。

6. 業界の動向、分析

Dunzoの成功は、インドのスタートアップ市場の可能性を象徴しています。スマートフォン普及率の上昇とITインフラの整備により、インドの消費者市場は急速に拡大しています。

また、インドの人口は14億人を超え、都市化が進行中です。こうした背景から、モノの配達だけでなく、新たなライフスタイルやビジネスモデルを提案するスタートアップの登場が期待されています。

急成長を続けるクイックコマース市場

インドではここ数年、クイックコマース市場が驚異的な成長を遂げています。

クイックコマースとは、食料品や日用品など生活必需品を短時間で届けるサービスであり、パンデミック中の外出制限やロックダウンをきっかけに急速に普及しました。特に都市部でのデジタル化やオンラインショッピングの普及が市場を押し上げる大きな要因となっています。

IBEFによると、2020年から2021年にかけてクイックコマース市場の流通取引総額(GMV)は約1億米ドルでしたが、2022年にはその規模が8倍の16億米ドルに拡大しました。さらに2023年には前年比70%以上の成長を記録し、23億米ドルに達しました。2024年には30億米ドルを超えると予測されており、今後も年平均成長率20~30%で堅調な伸びが続くと見られています。

https://www.infobridgeasia.com/columns/qcommerce-sep06

インドのクイックコマースが急速に成長した背景には、いくつかの特有の要因があります。

都市部ではスマートフォンやインターネットの普及率が高まり、ECプラットフォームの利用が急増しました。オンラインでの買い物が一般的になり、即時配送が求められるようになったのです。

また、インドでは「キラナ」と呼ばれる個人商店が多い一方で、日本のコンビニエンスストアのように品揃えが豊富な小型店舗が少ないことが、クイックコマースの需要を高める要因となっています。

インドでは古くから「御用聞き文化」が存在し、電話や店頭で注文すると商店が商品を届けてくれる慣習があります。こうしたインド特有の文化がデリバリーサービスに対する抵抗感を低くし、クイックコマースが受け入れられる土壌を作ったと考えられます。

そうした業界の動向がある中、Dunzoがターゲットとしている顧客は都市部の財布に余裕のある消費者で、その数は足元で2000万~2500万人ほどとみられます。13億人超というインド全体の人口と比較すると少なく感じるかもしれませんが、急激な都市化や消費の近代化を背景に顧客層は日ごとに厚みを増すでしょう。そのため、利便性の高いサービスさえ展開できれば、事業は容易に拡大すると見る向きはあるかもしれません。

7. 競合

インドのクイックコマース市場では、大手企業や新興スタートアップがしのぎを削っています。

  • Blinkit(旧Grofers)
    • 2021年にZomatoからの資金注入を受けてユニコーン(評価額10億ドル超)となり、2022年にはZomatoに約6億2,600万米ドルで買収されました。
  • *Zepto
    • 2021年創業のZeptoは、2023年には評価額50億米ドルを達成。ダークストア(店舗として機能しない倉庫)の数を2025年までに倍増させる計画を立て、さらなる事業拡大を進めています。
  • Swiggy
    • フードデリバリー大手のSwiggyは、2020年にクイックコマース部門「Instamart」を立ち上げ、事業拡大を続けています。

今後の展望と競争激化

クイックコマース分野には現在も積極的な投資が続いています。ZomatoはBlinkitの強化に向けて今年6月に30億ルピーを投入。Zeptoも3億6,000万米ドルの資金を調達し、事業拡大を加速させています。

また大手企業の参入も見られます。Reliance IndustriesはECプラットフォーム「JioMart」を通じてクイックコマース市場に参入を発表。Amazon Indiaも2024年までに新たなクイックコマースサービスを立ち上げる計画を進めています。

8. 筆者のコメント

インドのクイックコマース市場は、既存プレーヤーの拡大、新規参入、そしてテクノロジーの進化によって、今後も成長を続ける見込みです。

インドの急激な都市化や、消費の近代化を背景にDunzoの顧客層は日ごとに厚みを増すと考えられます。

しかし、インドの消費者の価格に対する意識は先進国と比べ非常に厳しいようです。コストを抑えるのは当たり前であり、時には利益を犠牲にしてでも低価格を実現しなければ受け入れてもらえないという厳しい市場であることも確かです。市場の構造も複雑で、左うちわの経営を続けていては競争を生き抜くのは難しいと考えられます。

今後、競争がさらに激化する中で、Dunzoがどのように差別化を図り、サービスを進化させていくのか注目です。

参考文献

更に詳しい情報をご希望の方は、有料レポートをご利用ください。

有料レポートの申し込み
記者プロフィール
齊藤大将さん
株式会社シュタインズ代表取締役。 情報経営イノベーション専門職大学客員教授。 エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究に従事。VR学校(私立VRC学園)やVR美術館を創作。CNETコラムニストとしてエストニアとVRに関する二つの連載を持つ。 この記者の記事一覧