2021年はインドのスタートアップにとって、多くの資金調達、IPOといった明るいニュースが多い年となりました。その中でも、今回のレポートでは、インドの美容ECをけん引して、2021年にIPOした、Nykka(ナイカ)について紹介していきます。
1.サービス概要
Nykka(ナイカ)は、ウェブサイトや携帯用アプリ、実店舗で美容、健康、ファッションに関する製品を販売するインドのeコマース企業です。インド国内では、小売店にて安価な化粧品がすぐに手に入る一方で、偽物が多く出回っています。Nykaaは、クリニークやボビーブラウンなど高額ブランドのアイテムをオンラインで販売することにより、偽物があふれるインド国内市場の中で信頼を獲得しました。
Nykaaという名前は、サンスクリット語で「スポットライトを浴びる人」を意味する単語のNayakaに由来します。オンラインサイトでは、男性用および女性用スキンケア、メイク、メイクアップアイテム、香水、ヘアケア、バスおよびボディ用品などのカテゴリーを持ち、1,200以上のブランドの8万5,000アイテムを超える商品を取り扱っています。2019年度にはホームページへの月間訪問者数500万人、前年比2倍弱の1億5,700万ドル(約168億円)の売上高を達成しました。(参照元: beautytechより)
Nykaaはインフルエンサーを活用した宣伝を行っており、Z世代のトレンドセッター、ライフスタイルブロガー、セレブリティなど、3000人以上のインフルエンサーと連携しています。
また、実際に商品に触れてみたいという消費者のニーズに応えるため2015年にデリーに最初の店舗をオープンして以来、Nykaaは実店舗事業を拡大しており、キオスク(小型店舗)、高級プレミアム商品を扱うNykaa Luxe、トレンド商品を扱うNykaa On Trendの3つのラインを展開しています。2021年10月時点で40都市に80店舗を展開しています。
2.企業概要(2021年12月17日時点)
法人名 | Nykka |
ファウンダー | falguni nayar |
HPリンク | Nykaa: Buy Cosmetics Products & Beauty Products Online in India at Best Price |
設立年度 | 2012年 |
資本金 | – |
売上 | – |
本社所在地 | ムンバイ |
従業員数 | 2,045 |
主要投資家一覧 | 資産管理会社フィデリティ・マネジメントと、TPGグロース・キャピタル |
ミッション | 高品質な化粧品をインドの消費者に提供すること |
3.創業の経緯、ファウンダーBIO
Nykkaの創業者でCEOを務めるfalguni nayar氏は、Kotak Mahindra Capital Companyの投資銀行部門でマネージング・ダイレクターを20年間務めたのち2012年に辞職し、ゼロから何かを生み出す旅を体験したいと、49歳のときにNykaaを創業しました。家族の貯金から200万ドルを捻出し事業を立ち上げた彼女は、世界的人気の美容E系コマースであるセフォラ*1のインド版を作り、クリニークやボビイブラウンなどの国際的な美容ブランドを含む高品質な化粧品をインドの消費者に提供することを目指してNykaaを設立しました。
Nykaaの創設以来、4年間で3人のCTOが離脱し資金調達に苦戦するなどnayar氏はいくつもの困難に直面してきましたが、現在は家族の支えの元Nykaaを経営しています。nayar氏は、夫のSanjay Nayar(米プライベート・エクイティKKRのインド支社のCEO)と2人の子供とともに、Nykaaの株式の54%を保有しています。息子のAnchitはオンラインビジネスを統括し、娘のAdwaitaは急成長を遂げているファストファッション部門Nykaa FashionのCEOを務めています。
インド国内において女性初のスタートアップ企業上場を果たしたnayar氏は、バイオテクノロジー企業Biocon創業者のKiran Mazumdar Shaw氏に次ぐインドで 2 番目のセルフメイドの女性富豪で、彼女の保有資産は38億ドル(約4320億円)に上るとみられています。(Forbes Japanより参照)
*1 セフォラ:フランス発のコスメデパート。世界の人気コスメなどの豊富なラインナップに加えて、セフォラ限定アイテムなども取り扱う。世界に店舗を展開、またオンラインショップでの購入も可能。
4.過去のラウンド概要
Nykaaは主に資産管理会社フィデリティ・マネジメントとTPGグロース・キャピタルの出資を受け、これまで累計7000万ドルを調達しています。2019年3月に実施した資金調達を経てユニコーン企業になっています。2021年にはIPOも実現しました。 (参照元:Forbes Japanより参照)
ラウンド名 | 時期 | 調達額 | バリュエーション | 参加投資家 |
Series A | Jul 2014 | $3.4 m | ||
Series B | Oct 2015 | $9.5 m | Michael Carlos, Dalip Pathak, TVS Capital Funds, Atul Nishar, Harsh Mariwala | |
Series C | Sept 2016 | $14.9 m | Harsh Mariwala, Sunil Munjal, Max Ventures and Industries Ltd | |
Series D-1 | Apr 2018 | $11.3 m | Michael Carlos, Dalip Pathak, Sunil Munjal | |
Series D | May 2018 | $25.2 m | Dalip Pathak, Harsh Mariwala, Sunil Kant Munjal | |
Private Equity | Mar 2019 | $14.4 m | $724 m | TPG Growth |
Series F | Mar 2020 | $13.3 m | Steadview Capital, Ravi Mehta | |
Unattributed | May 2020 | $8.9 m | $1.2 b | Steadview Capital |
5.業界の動向、分析
コンサルティング会社Technopakによると、インドの美容及びパーソナルケア市場は2018年の130億ドルから2023年には230億ドルに成長する見通しです。
また、昨年は新型コロナウイルス感染症の流行によりインドではオンラインで買い物する消費者が急増し、Nykaaも多大な恩恵を受けました。(2021.1 インド金融情報メディア「VCCircle」)2021年6月30日までの3カ月間のNykaaのGMV(流通取引総額)は1億9800万ドルで、売上は1億1000万ドル、利益は47万4000ドルであり、前年度が200万ドルの赤字だったのに対し、今年度は800万ドルの黒字となりました。(Forbes Japanより参照)
6.競合との差別化ポイント
伸び盛りであるインドの美容及びパーソナルケア市場の中でもNykaaはインドを代表する美容系Eコマースサイトですが、オンラインスペースではAmazon、Myntra、Flipkartなどの主要なeコマースと競合しています。
会社名 | Nykaa | Myntra | Flipkart | Amazon |
本社所在地 | ムンバイ、インド | ベンガル―ル、インド | ベンガル―ル、インド | シアトル、アメリカ |
創業年 | 2012 | 2007 | 2007 | 1994 |
従業員数 | 2,045 | 6,548 | 41,633 | 4461,468,000 |
資金調達額 | $ 100.9m | $ 437.9m | $ 12.4b | $ 108m |
バリュエーション | $1.2 b | N/A | N/A | $1.7 t |
このような大手競合との相違点として、Nykaaは正規品を消費者に届けることに力を入れています。美容パーソナルケア製品は在庫主導でビジネスを展開することで、インド国内のブランドまたはその正規代理店から直接調達し商品の真正性を保っています。
また、定期的に倉庫で品質チェックも実施しています。ファッション商品については、売り場運営の徹底した管理により、提携する販売者が正規の再販業者のみであることを保証しています。さらに、特定のブランドには独自のパッケージを提供しており、コストがかかったとしても顧客にブランド体験を提供し、信頼を構築することを重視しています。
Nykaaは実店舗販売によっても売上を拡大しており、2021年10月時点で40都市に80店舗を展開するなど大都市以外にも拠点を広げています。この背景には、インドのTier 2およびTier3(Tier2は人口が100万人以上400万人未満の都市、Tier3は人口が50万人以上100万人未満の都市)の都市において、Nykkaを含む、自社プラットフォームで美容商品を販売するeコマース企業(AmazonやFlipkart、Myntra(インドのファッションeコマース事業者)など)の売上が大幅に増加したことが挙げられます。
またNykaaは、顧客にとって普段購入できないようなブランドへのアクセスを提供することを使命としています。そのため郊外におけるオフラインストアのオープンは、ファンデーションのような、直接見て購入したい商品の提供に加え、顧客にとって製品やブランドの発見につながると考えています。
さらに、顧客が実店舗で商品を購入し信頼が構築されると、同じ製品をオンラインで購入しやすくなるといった効果も期待できます。2021年10月時点では売上の97%がオンライン販売によるものですが、このような戦略により、今後実店舗の売上は拡大するものと見込まれます。(https://inc42.com/buzz/nykaa-tastes-success-in-tier-2-and-3-cities-with-offline-strategy/より参照)
またNykaaは2019年にボリウッド女優のカトリーナ・カイフと合弁会社を設立し、新しい化粧品ラインのKay Beautyを立ち上げるなど様々な取り組みでも注目されています。(Inc42より参照)
7.筆者コメント
Nykkaはインド国内の美容市場におけるペインを正確に把握し、真摯に対処することで確実に顧客数を伸ばしてきました。Z世代のインフルエンサーと提携するなど時流を捉え、今後もインドの美容市場の成長と共に事業を拡大し続けることが見込まれます。
また、インド国内において女性CEOのスタートアップ企業初の上場を果たし、社員の47%が女性であるなど社会的な視点においても注目の企業です。