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インドスタートアップインド事情

Ninjacartが生み出す新サプライチェーンがインド農業を変革!

2024年7月19日

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Ninjacartが生み出す新サプライチェーンがインド農業を変革!

「スーパーで売られている○○円の野菜のうち、農家の手取りは○割にしかならない……。」というような話を、近年はよく耳にします。運送業者や卸売業者が農作物の流通に関わり、その中間マージンによって農家の利益が大きく減少している、という議論です。

運送業者や卸売業者が流通に関わることは良い面もありますが、悪い面もあるでしょう。例えば価格の透明性を担保できなくなったり、品質・信頼性が落ちてしまったり、といったデメリットがあります。

Ninjacartが作り出した新たな農業サプライチェーンは、その「中間業者が関わることによるデメリット」を解決し、インドの農業を効率的なものとしました。

1. 概要|Ninjacartとは

https://www.ninjacart.com/ninjacart/

Ninjacartはインドのベンガルールに拠点を置く、農作物を取引するBtoBプラットフォームの開発企業です。2021年5月に発表した950万ドルの資金調達を始め、多くのラウンドを経験してきたインドでも指折りのユニコーン企業となります。

Ninjacartが持つBtoBプラットフォームは、既存の「農家から仲介業者が青果を卸し、仲介業者が末端の小売店や飲食店に販売する」というサプライチェーンを否定し、農家から直接小売店・飲食店へ、ノンストップで流通させる形を取ります。

Ninjacartは単なるサプライチェーンではなく、技術によって支えられた農家と小売業者の命綱です。毎日1500〜1600トンの新鮮な農産物を各地に届けています。全国に1100以上の倉庫と190の集荷センターを戦略的に配置し、その規模は非常に大きいものです。

Ninjacartの成功の核心には、農家と小売業者を直接つなぐ技術の革新があります。中間業者を排除することで、農家はその労働に対するより良い報酬を受け取ることができ、安定した需要が保証されます。この革新的なアプローチは、関係者全員にとって有益なものです。

流通をNinjacartが担い、その内部構造を透明化することで、適正な価格で青果を市場に並べることができるようになります。これによって、仲介業者の存在によって非効率化してしまったサプライチェーンを最適化し、農家は最大限利益を得ることができるようになりました。

2. 企業概要|Ninjacart(2024年5月時点)

法人名Ninjacart
ファウンダーVasudevan Chinnathambi
HPリンクhttps://www.ninjacart.com/
設立年度2015年
資本金
売上
本社所在地Bengaluru,Karnataka, India
従業員数1,001-5,000
ミッション農業従事者全員に開かれた成長の地盤を築く

3. 創業の経緯、ファウンダーBIO|Ninjacartの歴史

Ninjacartの共同創業者であるバスデバン・C.は、2007年からシステムエンジニアとして働いた後、MBAを取得。2011年からメディア系の企業のデジタル部門で3年ほどプロダクトマネージャーを務め、2014年にはインドでのUberのようなライドシェアサービスを提供する企業TaxiForSureに移ります。

Ninjacartの誕生は、OlaがTaxiForSureを買収した2015年に始まります。

TaxiForSureでは、カルティースワラン・K.K.(32歳)、バスデバン・C.(39歳)、ティル・ナガラジャン(38歳)の3人が出会い、共に働きました。ナガラジャンは元Commonfloor.comの同僚であるシャラス・ローガナタン(40歳)と共にアプリを開発し、後にローガナタンもNinjacartの共同創業者として加わりました。

全員がタミル・ナードゥ出身のエンジニアであった彼らは、それぞれがスタートアップへの情熱を持っていました。TaxiForSureでの経験を通じて、お互いのスキルが補完的であることを実感し、アグリテックスタートアップを立ち上げる決意を固めました。OlaのTaxiForSure買収が進む中で、次のステップへと進むタイミングを見計らい、共同創業者たちは起業の道を選びました。

そして2015年、バスデバンはNinjacartを設立し、ローカルな食品配送サービスとしてスタートしました。

Ninjacartは、インドの農業市場におけるサプライチェーンの非効率性を解決することを目指し、設立されました。

しかし当初、BtoCプラットフォームは思うような成果を上げられず、バスデバンはビジネスモデルの再考を余儀なくされました。その結果、現在のBtoBプラットフォームへと転換し、農作物の効率的な流通を目指すこととなりました。

農作物の効率的な流通を実現するため、BtoBプラットフォームに転換したNinjacartは、小売業者やレストラン、小規模事業者が農場から直送された新鮮な野菜や果物を簡単に注文できるようにしました。

現在、Ninjacartは80万以上の農家と10万以上の小売業者のネットワークを持ち、Ninja Mandi、Ninja Kirana、Ninja Kisaan、Ninja Globalなど、様々なサービスを展開しています。これらのサービスは、クレジットソリューションやビジネスマネジメントツール、専門家のアドバイス、品質管理ソリューションなど、多岐にわたります。

Ninjacartの目標は、2024年末までに80%の事業が利益を上げ、キャッシュフローを生み出すことです。さらに、FY26までに収益化を達成することを目指しています。現在の70都市からFY25までに200都市へ拡大するための資金も必要です。

Ninjacartの成功は、インドの農業市場の改革に寄与し、創業者たちのビジョンを実現することにあります。農業は5,000億ドル規模の市場であり、これを効率化することで一生涯にわたるレガシーを築くことができるのです。

4. 過去のラウンド概要

ウォルマートにも支援されているNinjacartはこれまでに9回のラウンドで合計3億6800万ドルの資金調達を行っています。

最初の資金調達ラウンドは2015年8月21日に行われ、最新の資金調達ラウンドは2022年5月17日のシリーズDラウンドで917万ドルを調達しました。この最新ラウンドには、STIC InvestmentsとMainstreet Digital Lifeの2社が参加しました。

また2024年には、フィリピンの農漁業スタートアップMayaniに戦略的な投資を行いました。取引の具体的な財務条件は明らかにされていません。

この取引の一環として、Ninjacartは資金提供に加えて、サプライチェーンのサポートやアドバイザリーサービスも提供し、Mayaniのイノベーションと成長を後押しする予定です。また、Mayaniの事業拡大を支援し、アジア全域でのデジタルイノベーションを推進する統合的なアジア農食品サプライチェーンを共同で構築する計画です。

今回の新たな投資は、Ninjacartのベンチャーキャピタル部門であるNinja Venturesを通じて行われ、グローバルな拡大計画の一環となっています。このパートナーシップは、グローバルな食料供給のギャップを特定し、解決することを目指し、クロスボーダーの機会を活用してMayaniの市場プレゼンスを強化することを狙っています。

ラウンド名時期調達額参加投資家
Series AMar, 2016$3MZopSmart, Qualcomm Ventures, M&S Partners, Accel
Series AApr, 2017$370MQualcomm Ventures, M&S Partners, Accel, NRJN Trust, Mistletoe
Series AJul, 2018$4.9MAccel, NRJN Trust, Mistletoe
Series BJun 20, 2018$34.7MAccel, HR Capital, and 10 more
Series BDec 27, 2018$1MLarix
Series CApr 18, 2019$114MTiger Global Management, Tanglin Venture Partners, and 7 more
Series DOct 21, 2020$197MWalmart, Flipkart, and 3 more
Series DMay 17, 2022$150MAccel, Sequoia Capital India
tracxnより筆者作成

5.業界の動向、分析|Ninjacart

インドで注目されているアグリテック企業は以下の通りです。

会社名KhetiGaadiCrofarmFarm2FamFreshoKartz
創業者Pravin ShindeVarun Khurana, Prashant JainKeya SalotRajendra Lora, Nagendra Yadav
本社所在地インドインドインドインド
創業年2016201620192016
年間売上(2023年度)$6.7M$4.5M50万インドルピー1億〜100億インドルピー

KhetiGaadiは、50,000人以上の農家をオンラインプラットフォームでつなぐサービスを展開しています。このサイトは10種類の言語から選択できる機能を備えており、農家、トラクターメーカー、請負業者、ディーラー、仲介業者、サービスステーション、農業専門家を結びつけるアグリコマースマーケットプレイスとして機能します。このアグリテックスタートアップは、インドの農家や農業専門家にとって、農機具の購入、販売、レンタルを容易にしました。

Crofarmは、Big BazaarやReliance Retailなどの有名な小売市場や、BigBasket、Grofersといったオンラインストアを顧客に持っています。同社は、AIを活用した独自のデジタルツールを使って、サプライチェーン管理と物流の最適化を行っていると主張しています。この技術により、果物や野菜の店舗はデジタルコミュニケーションを通じて農場から直接新鮮な農産物を調達することが可能です。物流の管理、保管、そして小売チェーンの顧客への供給はCrofarmが一手に引き受けています。

Farm2Famの目標は、自然な栄養による人間の自己治癒能力に関する認識を広めることです。同社は、技術と伝統的なインドの農業手法を組み合わせて、特定の栄養製品を栽培しています。現在Pizza Express、Bay Route、White Charcoalなどの有名ブランドと提携し、毎月300人以上の顧客にサービスを提供しています。

FreshoKartzは、農家が農薬、種子、肥料、その他の農業用品を購入できるオンラインマーケットプレイスとして機能しています。

サイトには10,000種類以上の商品があり、農家と市場を直接つなぐことで、農産物の即時支払いを実現しています。この透明性と即時支払いの仕組みが、FreshoKartzに独自の価値を生んでいます。

Ninjacartが誕生した背景には、インドの特有な農業事情が大きく関係しています。インドでは、卸売市場「マンディ」で通商許可を持つ卸売業者が農産物の競りを行っています。しかし、この競りは競争性が乏しく、業者が取引の主導権を握っているため、農家は提示された価格を受け入れるしかないという不健全な市場環境が続いていました。

さらに、インフラ整備が不十分な地域では、配送中に雑菌や浸水被害を受けることが多く、農作物のおよそ30%が廃棄されてしまうという問題もあります。

インドの農業市場は、アメリカ、ヨーロッパ、中国と比べて非常に小規模で細分化されています。このため、Ninjacartはインドの市場に特化した革新的なアプローチが必要でした。FlipkartにはAmazon、OlaにはUberという手本がありましたが、Ninjacartには参考にできる企業がなく、自らの手で試行錯誤を重ねる必要がありました。

「これまでに13種類の実験を行い、それぞれ4ヶ月間試しました。これらの実験を通じて学んでいます」とプロダクト部門を担当するローガナタンは語ります。この試行錯誤の姿勢が、B2CビジネスからB2Bビジネスへの転換に役立ちました。

現在、インドの農家は困難な状況に直面しており、サプライチェーンの最適化によって農家の利益を取り戻すことが急務となっています。Ninjacartはこの課題に対応するため、農作物の効率的な流通を実現し、農家と小売業者の双方に利益をもたらすことを目指しています。

インドの農業市場における革新的な取り組みを通じて、Ninjacartは持続可能な農業経済の構築に貢献し続けています。

6.ビジネスモデル|Ninjacart

Ninjacartのビジネスモデルは、技術を駆使したB2Bアプローチを中心に展開しています。このモデルにより、農家と小売業者を直接つなぎ、サプライチェーンの効率を高めています。Ninjacartは、インド全土に自社の集荷センターを設置し、独自の流通網を形成しました。集荷センターに集められた農作物は、Ninjacartが監修するフルフィルメントセンターに送られ、そこから取引先店舗近くの流通センターへ運ばれます。この一連の流れはわずか12時間で行われ、新鮮な農作物を小売店や飲食店に届けることが可能となっています。

さらに、Ninjacartはプラットフォーム上で取引される農作物をRFIDで追跡することで、安全性と信頼性を確保しています。また、機械学習モデルを活用して需要予測や価格推論、作物の推奨などを行い、農家への支援を強化しています。これにより、農家はより良い価格と安定した需要を得ることができ、小売業者は新鮮な農産物を競争力のある価格で入手できるというウィンウィンの関係を築いています。

Ninjacartの収益は主にこれらの取引から得られるコミッションに依存しており、中間業者を排除することで農家に直接利益をもたらしています。このようなサプライチェーン技術とインフラへの積極的な投資により、インドの農業市場は確実に良い方向へと向かっています。

Ninjacartは、単なる食品供給プラットフォームではなく、インドの農業市場を変革する存在です。技術と効率性を追求することで、農家と小売業者の双方にとって公正で持続可能な未来を築いています。

7.筆者コメント

ここまで、ユニコーン企業”Ninjacart”について、サービス概要を交えながらまとめてきました。調査をした上での筆者の見解は以下となります。

・農業に関わる「生産」と「流通」の、新時代を作り上げたプレイヤー

生産、卸売、流通、小売は基本的に分離しているのがいままでのスタンダードでした。これは、それぞれの業務には全く異なる専門性が必要なためです。しかしNinjacartはテクノロジーを駆使し卸売・流通のインフラを創り上げ、生産の支援までをも実現させました。これは今までにない全く新しいスタイルであり、農業市場に大きな課題があったインドだからこそ生まれたサービスだと言えるでしょう。

「生産」と「流通」は、モノを売る上で切り離せない関係にも関わらず、一連の流れではなく分けて考えるのが今の市場のスタイルです。しかし、流通業者が飽和し中間マージンが増えることで、いつしか生産者側が限界になるタイミングが来てしまうでしょう。

農業に限らず、「生産」から「流通」、「販売」までの一連のストーリーをデザインすることが、今後の物流における一つの鍵となるかもしれません。

ただし、サプライチェーンが細分化しすぎるとランニングコストが急上昇してしまう傾向にあります。Ninjacartもその規模と細かいサプライチェーンの維持メンテナンスにコストがかかりすぎてしまうリスクもあるので、注意が必要です。

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記者プロフィール
岩本晴空さん
株式会社FUNS所属。同社にてメディアライター、webデザイン等を経験。現在はVR×地域活性を主軸にした研究コミュニティを埼玉県加須市で展開している。 この記者の記事一覧