ここ数年、ヴィーガンやフレキシタリアンという食習慣が世界的に広がり、植物由来タンパク質は食品業界の成長分野として脚光を浴びています。代替肉やプラントベース乳製品が次々と投入される一方で、「偏った原料構成」「青臭さ・粉っぽさといった課題」「安定供給に伴うコスト変動」など、解決すべき壁が依然として残っています。
これを解決しうるのが、インド発のフードテック企業Proeonです。多彩な作物から高機能タンパク質を抽出し、用途ごとに最適化したタンパク質原料を食品メーカーに提供。独自の低温抽出プロセスで風味と機能を両立させ、クセのない原料を実現しました。
今回は、このProeonについてご紹介していきます。
1. 概要|Proeonとは
Proeon(プロイオン)は 2018年にAshish KordeとKevin Parekhの手によって創業された本社プネー(インド) のフードテック企業です。
ムング豆・ヒヨコ豆・アマランサス・ヘンプなど多様な作物から抽出した高機能植物性タンパク質原料を食品メーカーへ供給するのが主な事業です。独自の低ダメージ抽出・精製プロセスにより ゲル化・乳化・起泡・水保持 といった加工特性に優れる点が特徴で、代替卵、代替乳製品、プロテイン飲料、スナックなど幅広い配合用途に対応しています。
Proeonは、独自の低温抽出プロセスにより、機能性は残しつつも、青臭さや苦味といったオフフレーバーが大幅に削減された原料を製造。旗艦素材 “PROEON MUNG80” は消化率 98 %を誇り、香料や増粘剤の使用量を減らせるため、インド国内外クリーンラベル志向のブランドから注目されています。
2. 企業概要|Proeon
法人名 | Greenizon Agritech Consultancy Pvt. Ltd. |
ファウンダー | Arjun AhluwaliaAdriel Maniego |
HPリンク | https://www.jai-kisan.com/ |
設立年度 | 2017年 |
資本金 | – |
売上 | |
本社所在地 | Mumbai, India |
従業員数 | 150名以上(2025年時点) |
ミッション | 農家・小規模事業者の生計向上(9億人以上の農村人口への貢献)を目指す。 |
3. 創業の経緯、ファウンダーBIO
共同創業者であるAshish KordeとKevin Parekhの二人は、インドの健康原料ビジネスで協働したことをきっかけに意気投合したパートナーです。Korde製薬・食品・サプリメント業界で20年以上にわたりサプライチェーンと事業開発を指揮し、インド国内一万戸超の農家を束ねる原料調達ネットワークを構築した経験を持ちます。一方、Parekh は農業経営教育で名高い IRMA(Institute of Rural Management Anand)の出身で、米・欧州・東南アジアをまたいで新素材の R&D、プロダクトマネジメントなどを手掛けてきた“イノベーション”を仕掛ける人物です。
彼らは何か、他とは違うことをしたいと考え、目を付けたのは「植物由来の代替食品」でした。今世の中は空前のヴィーガン・ブームで、代替肉などの植物由来の食品が非常に注目されています。しかし、彼らは業界調査を通して、代替食品の味や栄養価に大きな課題が残されていることを発見しました。もっとおいしくて、栄養価の高い代替肉を作ろう、そうしたシンプルなビジョンが、2018年のProeon創立という形になりました。
4.過去のラウンド概要
調達額は約 300万ドル強。シードラウンドは当時業界最大規模と報じられました。
ラウンド名 | 時期 | 調達額 | 参加投資家 |
Grant (prize money) | Apr 14, 2025 | $1.07M | |
seed | Sep 07, 2021 | $2.39M | Shaival Desai, Sanjay Mariwala, 等 |
5. 事業内容|
① 植物タンパク質原料の開発・製造
Proeon は「原料そのものの機能値を高めることが食品の品質を左右する」という考えのもと、ムング豆・ヒヨコ豆・ピーナッツ・アマランサス・ヘンプといった多様な作物を専用プロセスで抽出・精製し、80 %以上の純度と高い加工適性を両立させたタンパク質原料を製造しています。
旗艦素材の PROEON MUNG80 はゲル化性・乳化性・起泡性が優れており、代替卵や高タンパク飲料に投入すると従来の大豆・エンドウ系のタンパク質原料よりも滑らかな口当たりとなります。さらに98 %という高い消化率と青臭さ・苦味の少ないクリーンなフレーバーを実現しているため、香料や増粘剤などの添加物への依存を減らせる点もメーカーから評価されています。
Proeon PEANUT80 は、ピーナッツ製油工程で生じる脱脂粕を再利用して抽出した アップサイクル由来のタンパク原料です。タンパク質含有率は 80 %で、必須アミノ酸をバランス良く含み、消化率は 97%。ざらつきがなく原料由来の風味が程よく残るため、プロテインバーやシリアル、ピーナッツバターなど様々なものに使うことが可能です。
② 共同開発・カスタマイゼーション
原料を「売って終わり」にしない点が Proeon の強みです。
同社はプネー本社の応用試作ラボと、R&D センターをオンラインで直結し、顧客サンプルを受領してから最短 4 週間で試作品とレポートを作成・返却できる体制を構築しました。
これまでに代替液卵を開発するスタートアップと、調理時の凝固温度を動物の卵に近づける卵液を共同開発。大手ベーカリーには、グルテンフリーでも“ふわもち”食感が維持できるタンパク質原料ブレンドを提案しています。大学や研究機関と連携したレオロジー解析・水分活性測定により、共同開発する企業は自社に高度な分析設備がなくても科学的根拠に基づくレシピ改良が可能になります。
試作後はProeonのパイロットプラントで量産条件を検証し、そのまま商業生産に移行できるため、製品化までの期間短縮と投資削減に寄与しています。
6.競合との差別化ポイント
Proeon 最大の強みは、「単一タンパク質原料からの脱却」にあります。同社はムング豆・ヒヨコ豆・アマランサス・ヘンプなど複数作物を用途ごとに使い分ける戦略を採用し、肉・乳・卵代替それぞれに最適な機能を持つ原料を提供しています。
ムング豆はゲル化・起泡・乳化に優れ、スクランブルエッグや焼き菓子に最適。一方ヒヨコ豆は水保持性が高く、肉様のジューシーさを付与できる――こうした“適材適所”の配合により、単一タンパクにありがちなオフフレーバーや食感不足を抑え、食品ごとにベストミックスを提案できる点が従来のタンパク質原料との決定的な差異となっています。
また、多くの品種を取り扱うことで、従来の大豆やエンドウ系以外の農家とのつながりを産むことができます。これはProeonにとってだけでなく、農家側にも新たな需要をもたらし、持続可能なパートナーシップを構築することで同社のサプライチェーンを一層強固なものにします。
7.筆者コメント
ここまで”Proeon”について、概要を交えながらまとめてきました。
世界的なヴィーガン拡大やフレキシタリアン層の台頭により、植物由来タンパク質市場は 2024 年の 520 億ドル規模から2025 年には640 億ドルへと達することが見込まれるなど
高い成長性を維持しています。環境負荷の低減やアレルゲンフリー志向に加え、フィットネス傾向の高まりが追い風となり、インド国内でも63%が植物由来の代替食品に置き換えたい意思を示すなど、その動きは大きくなっています。
その中でProeonはインド国内の多様な農産資源 × 食品 R&D エコシステム という両輪を活かし、タンパク質原料の高品質化と多様化を実現しました。これは市場が求める「よりおいしく、より機能的な」というリッチなニーズにフィットするだけでなく、インド国内農家と契約を結ぶことで共有の安定性を低コストで実現していることで評価を高めています。
今後、ベジタブルな文化が広がるにしたがって、タンパク質原料の機能改良や供給増加を求める声は次第に大きくなっていくでしょう。Proeonのような柔軟な原料プラットフォームが、大きな立場を握りそうです。