TOP

海外テック&スタートアップメディア クロスユーラシアmedia

twitter facebook note

エストニアスタートアップエストニア事情

エストニア発3Dスキャン・アバター企業 Wolf3D

2023年6月20日

この記事をシェアするtwitter facebook note

エストニア発3Dスキャン・アバター企業 Wolf3D

メタバース。世界を、次元を超越し、あらゆる人と隣人のようにつながることができることがその魅力であり、そこでは自らのアイデンティティが1体の3Dアバターとして表現されます。

Wolf3Dの作る「Ready Player Me」は、1枚の自撮り写真から3Dアバターを作り出し、誰でもメタバースへと踏み込むことのできる入口を生み出しました。

1. 概要|Wolf3Dとは

Wolf3Dは、エストニアに拠点を置く3Dスキャン・アバター開発企業です。彼らは創業後、3Dスキャニング技術の研究を重ね続け、その研究成果の結晶として3Dアバター作成サービス「Ready Player Me」を生み出しました。

2020年時点の資金調達ラウンドでエストニアのベンチャーキャピタルTrind Ventureのほか、Presto Ventures、 Koha Capital、Spring Capital、Contriber Venturesなどから合計130万ドルを調達。2022年にはWiseとTeleport、Skypeの共同設立者であるTaavet+Sten氏が主導したシリーズAでの1300万ドルの調達を受け、現在では世界有数のメタバース・スタートアップへと成長を果たしました。

3Dアバター作成サービス「Ready Player Me」は、個人で撮影した1枚の自撮り写真から、簡単に3Dアバターを作成することが可能になります。写真をアップロードすると数秒でアバターが生成され、その上から自分の好きなようにカスタマイズ、文字通り「自分だけ」のアバターを作り上げることができます。アバターデザインは実写とデフォルメの中間地点を狙い、シンプルすぎず、リアルすぎないものを追求しており、仮想への没入感を高めています。

またReady Player Meで制作したアバターは、異なるプラットフォーム同士を仲介するハブシステムを通して様々な別のプラットホームへアップロードできることも特徴です。ユーザーは、簡単な操作でアバターの制作からアップロードまでを行うことが可能となります。

エストニアは「Wise」や「Zego」そして、「Bold」といったさまざまな世界的スタートアップを輩出している国です。ぜひ他の記事もご覧ください。

2. 企業概要|Wolf3D

法人名Wolf3D
ファウンダーTimmu TõkeHaver JärveojaKaspar TiriRainer Selvet
HPリンクhttps://wolf3d.io/
設立年度2014年
資本金
売上5,600万ドル
本社所在地Estonia
従業員数70名以上
ミッション様々なアートスタイルでのアバター製作サポート
ホームページ、LinkedIn、Crunchbase, Craft.coより筆者作成

3. 創業の経緯、ファウンダーBIO|Wolf3Dの歴史

Wolf3Dの歴史のスタートは、2014年に遡ります。彼らはまず人体の3Dスキャンにチャレンジしました。彼らが開発したのは大型の卵型スキャン装置。その中央に座ると、装置をグルリと囲んだカメラが撮影を行い、独自のデータベースに基づいたアルゴリズムで処理され、3Dモデルが完成します。

しかし、これには1つのアバターを作るのに多くの労力と多大な維持コストがかかります。後に彼らはこのビジネスを断念。そのかわり、顔が写っている写真1枚で簡単にアバターが作れるサービスの開発を思いつきます。アバターづくりをもっと手軽にする、という創業者の一人Timmu Tõkeの思いを胸に、3Dスキャン技術研究のノウハウと、今まで蓄積したデータサイエンスを活かし、もっとアバターづくりを身近に、手軽にするため彼らが生み出したのが「ReadyPlayerMe」なのです。

4.ビジネスモデル|Wolf3D

Wolf3Dはこれまで、ReadyPlayerMeにおいてカスタムコンテンツの作成ツール、スタイルやボディタイプなどのアバターアートに関するアセットの充実、アバター性能の向上といった、アバターシステム周りの環境を整備してきました。Wolf3Dはこのアバターシステムを用いたアセット販売環境とNFTマーケットプレイスを作り上げ、クリエイター・デベロッパーが自由に自身のコンテンツを発信、販売して収益化できる場づくりの構築・維持を実践しています。

またWolf3Dは、さまざまなアパレル企業と提携しています。adidas、New Balance、Calvin Kleinを始めとした企業が、Ready Player Meに商品のデザインを提供しています。ユーザーは好きなブランドのデザインをアバターに使用でき、企業もメタバース上で製品の宣伝が可能です。

5.競合との差別化ポイント|Wolf3D

ReadyPlayerMeのようなアバター作成ツールは、他にも様々あります。日本で最も馴染みがあるのは「VRoid Studio」でしょうか。数々のアバター作成ツールと比べたReadyPlayerMe、ひいてはWolf3Dの強みはなんでしょうか。

これはやはり「写真1枚からアバターを作れる」という手軽さにあるのではないでしょうか。

アバター作成ツールの多くは、アバターのクオリティが作成者その人のセンスに委ねられます。パーツの配置、形、色味などなど…… 自分の狙ったように調整することはなかなか難しいものです。

ReadyPlayerMeは、写真1枚を読み込み解析することで、こうした”センス”がなくても「自分」のデザインを簡単に獲得することができるのです。これは、デザインやアバターアートに造詣があまり深くない人でも、気軽に自分だけのアバターを持つことができることを意味します。

またReadyPlayerMeは、異なるプラットフォーム同士を緩くつなぐネットワークとしての側面もあります。独自のハブシステムを通じて様々なゲーム・プラットホームでアバターを利用できることで、ユーザーはアバターをそのままに、様々なゲーム・プラットホームを自由に行き来することができるようになります。

6.筆者コメント

ここまで、エストニアスタートアップ”Wolf3D”について、サービス概要を交えながらまとめてきました。調査をした上での筆者の見解は以下となります。

人々をメタバースへと繋ぎ、新たな体験を生み出すサービスであること

いわゆる”メタバース”が持つ最も大きな魅力は「どれだけ離れた人同士でも、何人ともまるで隣人のような近さでコミュニケーションをとることができる」点だと筆者は感じています。しかし世間のメタバースの浸透率は、未だ高くありません。この魅力を最大限に活かすためには、これを利用するユーザーを沢山増やしていくことが最も効果的だと考えます。

メタバースが浸透しない背景には、アバターを用いた自己の確立が難しいことが一因としてあるのではないでしょうか(無論ハードウェア等に関する経済的・技術的問題もありますが……)。ReadyPlayerMeのような簡単にアバターを作成して、プラットホームを超えた行き来ができるようなサービスは、メタバース上での自己確立の一助となると筆者は考えます。

近年は技術革新も進み、メタバースの概念が世間に浸透する土台ができあがってきました。メタバース・バーチャル技術の市場動向には、今後も注目していきたいところです。

更に詳しい情報をご希望の方は、有料レポートをご利用ください。

有料レポートの申し込み
記者プロフィール
岩本晴空さん
株式会社FUNS所属。同社にてメディアライター、webデザイン等を経験。現在はVR×地域活性を主軸にした研究コミュニティを埼玉県加須市で展開している。 この記者の記事一覧