エストニア発のユニコーン、BOLT(ボルト)

電子国家を形成するエストニアでは様々なサービスを展開するスタートアップが続々と生まれています。

今回はその中でもユニコーン(非上場・企業価値約1100億円・創業10年以内のスタートアップと定義)と目されているBolt(ボルト)の事業・サービス内容について紹介します。

1.サービス概要

Bolt(ボルト)はスマートフォンアプリを介した配車サービスを提供しています。車の配車の他、車のレンタル、電動スクーターのレンタル、フードデリバリーサービス等も提供しています。

– サービス概要

Boltが提供する主なサービスは以下の表のようになります。

サービス開始年解決するペイン解決方法
Bolt(配車サービス)2013.8~電話による非効率な配車到着時間の遅延不衛生なタクシースマートフォンアプリによる配車乗車後のドライバー評価
Bolt scooters(電動スクーターシェアリング)2019.6~高騰する車の燃料コスト車のCO2エミッションによる環境負荷エコフレンドリーな電動スクーターによりユーザーにラストワンマイルの交通手段を提供
Bolt Food(フードデリバリー)2019.8~コロナ禍で現地に赴いての食事、食品の調達が困難個人宅への食事・食品の配達Bolt Grocery Boxという完全非接触での配達も
Bolt Drive(カーシェアリング)2021.5~自家用車による街のスペース占領・交通渋滞「所有」から「オンデマンド」へ車利用をシフト
BOLT HPより筆者作成

Boltの配車サービスの利用フローは以下の動画のようになっています。

https://www.youtube.com/watch?v=tVXudm9HxeU

アプリ上で近くにいる利用可能なドライバーに配車リクエストを送り、そのリクエストを承諾したドライバーが指定した配車ポイントまでやってきたその車に乗車するという流れで、基本的な利用方法はUberと同じです。支払いもクレジットカードによる支払いと現金による支払いが可能です。

App Storeより抜粋(https://apps.apple.com/jp/app/bolt-fast-affordable-rides/id675033630)

電動スクーターシェアリングの利用の流れは以下の動画のようになっています。

https://www.youtube.com/watch?v=n6VSUH-vj1Q

スクーターに添付されているQRコードをアプリで読み取るとスクーターのロックが解除されます。スクーターはハンドル部のスロットルとハンドブレーキを用いた簡単な操作で操縦できます。利用後は目的地近くの指定ステーションにスクーターを返却します。アプリからカメラを立ち上げスクーターを画面全体に映すと利用手続きが完了します。

– 誰のどんなペインを解決しているのか?

CEOMarkus Villigは「当時のエストニアのタクシーサービスは酷かった」と振り返ります。タクシー車内は不衛生で、タクシーの到着にかなり時間がかかるといった現状でした。また、タクシードライバー達はタクシー会社に毎月高額の手数料を払っていましたが、その見返りはほとんどありませんでした。そういった背景からMarkusはエストニアで配車アプリサービスをローンチすることを決意します。

*https://www.ft.com/content/9dbc77a0-4a78-47f3-89de-4850d561211d

– 価格感やどんな市場に対してのソリューションなのか?

Boltのユーザー数は2020年12月時点で5000万人に達しており(https://craft.co/taxify)、ヨーロッパ、アフリカを中心に40ヵ国以上(https://bolt.eu/en/cities/)でサービスを展開しています。Uber等競合は多いですが、ドライバーに課す手数料がUberより低く(Uber:約25%、Bolt:約15%*)、この点が「ドライバー数の確保に一役買っており、ひいてはユーザーに素早い配車をするということにもつながっている。」*

*https://ampmedia.jp/2019/08/23/bolt/より引用。

2.企業概要(2021年6月30日時点)

法人名Bolt Technology OÜ
ファウンダーMarkus Villig
HPリンクhttps://bolt.eu/
設立年度2013年
資本金
売上
本社所在地タリン、エストニア
従業員数2706人
主要投資家一覧International Finance Corporation, Darsana Capital Partners,D1 Capital Partners,Naya Capital,European Investment Bank,Korelya Capital,G Squared,Counterpart Advisors,Creandum,NordicNinja VC,etc.
ミッション自動車、バイク、スクーター、電動自転車、フードデリバリーサービスをカスタマーと結びつけるプラットホームを通じて未来のモビリティを構築すること。

Boltホームページ、LinkedIn、Crunchbase, Craft.coより筆者作成

3.創業の経緯、ファウンダーBIO

創業者のMarkus Villigは幼い頃からテクノロジーに興味を持っていましたが、彼が企業を決意する最初のきっかけになったのは、Markusが10歳の時に創業したエストニア発のTech企業Skypeの存在でした。その後のSkypeの大躍進は彼の中で「世界のどこからでもグローバル企業を生み出すことができる」という確信を芽生えさせました。また、彼の兄Martin VilligがSkype創業初期の社員として働いていたという事実も彼の中で刺激なりました。10代のうちにプロダクト開発の経験を積んだMarkusは19歳になったタイミングで彼が今後取り組むべきことを真剣に考え始めました。様々な業界調査の後、世界中の消費者の出費の15-20%を占めるTransportationが今後20年で大きな変化が起こる業界だと悟りました。その当時のTransportation業界にはシェアリング、マイクロモビリティ、電気自動車、自動運転など様々な新しい概念が登場していたこともあり、Markusはこの分野で企業することを決意しました。

19歳で起業した当初は資金調達には苦労したようです。これまで築き上げた業績やネットワークがないため当初投資家たちは投資を渋りました。また、Uberという競合が既に配車サービス市場で成功していたことも投資家たちの消極的な姿勢に繋がりました。そこでMarkusは5000ユーロ両親から借りて最初のプロダクト開発を行い、Markus自身が路上で配車サービスに参加してくれるドライバー集めに奔走するなどして、ようやくエンジェルラウンドで10万ユーロを調達しました。

Startup Grinder でのMarkus Villingへのインタビューより筆者作成(https://www.youtube.com/watch?v=g3g-1OE-SYw )

4.過去のラウンド概要

Boltの過去のラウンドは以下の表のようになります。創業当初のラウンドには連続企業家でありエンジェル投資家でもあるMarkusの実兄Martinが参加しています。MartinはBoltの共同創業者でもあります。Markusとは15歳も歳が離れており、Bolt参画前に既にウェブデザイン、IT、証券取引所、Eコマースなど様々な業界で創業者あるいはマネージャーとして経験を積んでいます。(http://martinvillig.com/about-martin-villig)

1億ドルを超える大型調達は2018年に1回、2020年に2回実施しています。2018年の調達時にバリュエーションは10億ドルを超えてユニコーンの仲間入りを果たしています。また、配車サービスでは競合ともいえるDidi Chuxingから2017年に投資を受けているのも特筆すべき点でしょう。

ラウンド名時期調達額バリュエーション参加投資家
SeedApr 2014$100 kMartin Villig, Thomas Berman, Andrus Purde
SeedDec 2014$1.7 mTMT Investments, Adcash, RubyLight
SeedMar 2016$334 kMartin Villig, Thomas Berman, Mikko Silventola, Toomas Bergmann, Märt Kelder
IndependentAug 2017Didi Chuxing
IndependentMay 2018$175 m$1 bTaavet Hinrikus, Daimler, Korelya Capita
Series CJul 2019$68 mCreandum, G Squared, Superangel, NordicNinja VC, Naya Capital
UnattributedMay 2020$108.9 m$1.9 bNaya Capital Management
UnattributedDec 2020$182.3 mD1 Capital Partners, Darsana Capital Partners
UnattributedMar 2021$24.2 m
https://craft.co/taxify より筆者作成

5.業界の動向、分析

以下のグラフは世界のタクシーアプリを横軸にサービス提供国数、縦軸に収益でマッピングした散布図になっています。(https://www.businessofapps.com/data/ride-hailing-app-market/)

サービス提供国という軸ではUberが、収益という軸ではDidiとUberが頭1つ2つ抜けています。Boltはサービス提供国数ではUberに次いで2番目の位置につけています。

2019年の世界全体のタクシー業界の市場規模は691.8億ドルと評価されており、2027には1200.89億ドルになると推定されています(年平均成長率12.3%として計算)。(https://www.alliedmarketresearch.com/taxi-market-A10565 より参照)

ヨーロッパに目を向けてもタクシーアプリ(配車アプリ)の収益はここ数年で急激に増加しています。以下のグラフによると、2020年はパンデミックの影響を受け収益は大幅に減少しているものの、2015年から2019年にかけては約11億ドル増加しています。

https://www.businessofapps.com/data/ride-hailing-app-market/ より引用

ヨーロッパの配車アプリのユーザー数に関しては2015年時点で既に120万にいるもののその後も着実に増加し2020年には150万にに達しています。

https://www.businessofapps.com/data/ride-hailing-app-market/ より引用

ヨーロッパでの主な配車アプリのプレーヤーは以下の円グラフのようになっています。主たるプレーヤーはUber, Bolt, Free Now, Gett, Cabify, Olaの6社に絞られています。ヨーロッパ市場においてもシェア65%と以前とUberの存在感は大きいですが、そんな中、エストニア発のBolt、ドイツ発のFree Nowといったヨーロッパ生まれの企業が米国企業Uberに肉薄しています。Uberはブルガリア、デンマーク、ドイツ、ハンガリーといった国ではサービスの一部あるいは全ての提供を禁止されています。こうした中、Boltは東欧やロンドンでの存在感を高めており、Free Nowはドイツでサービスを大きく展開しています。ドイツ市場参入のため、UberがFree Nowを1億ドルで買収するという噂もあります。(https://europe.autonews.com/automakers/uber-offers-more-1b-buy-daimler-bmws-free-now-report-says)

ちなみに、Free Now はBMWグループとダイムラーが共同設立した会社です。(https://response.jp/article/2019/02/25/319473.html)

https://www.businessofapps.com/data/ride-hailing-app-market/ より引用

6.競合との差別化ポイント

Boltと配車サービスにおける競合をまとめた表は以下となります。

会社名BoltUberFree NowGettCabify
本社所在地タリン、エストニアサンフランシスコ、アメリカニューヨーク、アメリカロンドン、イギリスマドリード、スペイン
ユーザー数50 M (Dec, 2020)N/A50 MN/AN/A
407110412
主要地域ヨーロッパ(特に東欧)、アフリカ、中東北米、ヨーロッパ、アフリカヨーロッパ(特に西欧)ヨーロッパ、ロシア、イスラエルヨーロッパ、中南米
従業員数2,70622,8002,0007732,268
資金調達額$560.6 M$24.5 B$100.6 M$928 M$477 M
バリュエーション$1.9 B$95.3 BN/A$452.7 M$1.4 B

Craft.co, LinkedIn, Crunchbase, 企業HPより筆者作成

やはり、全ての評価項目においてUberは頭ひとつ抜けていますが、Boltはサービス提供国数、従業員数、バリュエーションの項目においてUber以外の競合他社を上回っています。北米を中心に世界各国でサービスを展開するUberに対して、Boltはヨーロッパ(特に東欧)、アフリカに絞ってサービスを展開しています。中東欧エリアでUberが26都市でサービスを展開しているのに対して、Boltは70都市以上でサービスを展開しています。(https://emerging-europe.com/business/bolt-from-the-blue-eib-offers-estonian-start-up-help-in-battle-to-take-on-uber/)

また、Bolt(当時Taxify)はアフリカでのサービスローンチ当初、ドライバーに課す手数料をUberより低く設定することでドライバー数の獲得に成功しました。(Bol手数料t: 10-20%, Uber: 25%)(https://www.cgdev.org/blog/uber-and-taxify-africa-good-work-or-race-bottom)

Bloombergによるインタビューの中で、(低い手数料によって会社が受け取るマージンが減るのではないかという質問に対し)CEOのMarkus Villig「ドライバーの満足度をあげることでサービスの質の向上させ、長期的に見ればより大きなネットワークの構築につながる」と語っています。

(https://www.bloomberg.com/news/videos/2017-09-05/how-taxify-distinguishes-itself-from-uber-video)

それを裏付ける結果として、2018年時点のアフリカ市場においてUberが130万人のアクティブユーザーを確保しているのに対して、Bolt(当時Taxify)はその約2倍の240万人確保しています。Boltはウガンダにおいては単純な車の配車よりもボーダ・ボーダと呼ばれるモータバイクの配車の需要が高いと考え、Uberよりも先にボーダ・ボーダの配車サービスをローンチしています。

(https://www.pymnts.com/news/ridesharing/2018/taxify-beats-uber-africa/)

また、Uberがドライバーに課す手数料の高さも問題となり、ナイジェリアやケニアではドライバーによるストライキが起こっています。(https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-04-19/uber-bolt-drivers-in-africa-protests-higher-costs-of-operations

ヨーロッパ市場でUberと対抗するBoltが、中国市場で同じくUberと対抗するDiDiと資本関係にあるのも興味深いです。先述のように、Boltは2017年にDiDiから出資を受けています。この点に関してCEOのMarkus VillingはStarup Grinderのインタビュー(https://www.youtube.com/watch?v=g3g-1OE-SYw)で、「DiDiは中国市場でUberに勝つ確信があり、他の市場でUberに対抗できる可能性がある企業に投資するのは彼らにとって自然な流れだった。その投資先は、インドではOla、アメリカではLyft、そしてヨーロッパでは我々だった」と語っています。(インタビューを元に筆者訳)

7.筆者コメント

◆配車市場の王者はやはりUber

タクシー配車・ライドシェアリング市場においてはやはりUberの存在感は大きいです。DiDiは収益ベースではUberに勝っているが、中国とその周辺市場でしか存在感を示せておらず、サービス提供国ベースというもう一つの軸を加えた時、Uberの右に出る企業は今のところありません。

◆BoltはEMEA配車市場の雄

世界的に見るとUberと肩を並べるのは難しいですが、ヨーロッパ・アフリカ・中東地域(EMEA)での局地戦を考えた時にBoltは十分Uberに対抗できています。ヨーロッパではマーケットシェアでこそUberが60%と圧倒しているように見えますが、Boltは創業国エストニアを基軸とした東欧で支持を得ています。また、アフリカ市場においてもユーザー数においてUberと対等に戦うことができています。

◆Uberは剛、Boltは柔

Uberは破竹の勢いで全世界に市場拡大してきましたが、勢力拡大の方法は「強硬」という感が否めません。実際Uberは世界各地で訴訟を抱えユーザー、ドライバー、政府と対立することもしばしばです。Boltが完全にカスタマーサイドに寄り添ったサービスを提供できているとは言いませんが、ドライバーの利益を考え手数料を低く設定したり、アフリカでは地域の現状に即した解決策としていち早くモータバイク配車サービスを提供したりと、「柔」の戦い方ができていると感じます。カスタマーペインを捉えたサービスをローンチしている点にスタートアップとしての成功の要因を感じます。27歳という若きCEOが牽引する新進気鋭のエストニア発のユニコーンにこれからも目が離せません。

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