スタートアップエコシステムの存在するところ、どこでも必ずスタートアップメディアも存在します。日本で言えば、THE BRIDGE等が挙げられ、スタートアップの先端シーンをフィーチャリングしています。
ベンガルールにおいてもそれは同じで、今回はインドを代表するスタートアップメディアである、YOURSTORYを紹介しつつ、スタートアップメディアがどのようになっているのかを解説していきます。
1.サービス概要
YOURSTORYはメイン事業をスタートアップメディア事業としつつも、メディア事業だけではなく、イベント事業(ハッカソンやエコシステムイベント)や外国向けのコンサルティングサービスを展開しています。
メディア事業としては、広告掲載や広告記事の出稿が主となっています。イベント事業としては、ハッカソン形式でスタートアップを集めて投資家や外国企業の前でプレゼンするものもあれば、「TECHSPARKS」と呼ばれるインド最大のスタートアップイベントもあります。イベント事業はスポンサーシップとイベント企画費用にてマネタイズプランが構成されています。
【サービスの一例:イベント事業】
【メディア事業の一例:韓国向けメディアYSKOREA】
韓国向けメディアは2019年時点ではなかったものでしたが、2020年になって急速立ち上げとなったコンテンツです。インドのスタートアップを全て韓国語で記載しており、他のメディアでは見られないコンテンツとなっています。
2.企業概要
法人名 | Yourstory Media Private Limited |
ファウンダー | Shradha Sharma |
HPリンク | https://yourstory.com/ |
設立年度 | 2008年 |
資本金 | – |
売上 | – |
本社所在地 | ベンガルール、インド |
従業員数 | 約440人 |
主要投資家一覧 | Qualcomm Ventures, Kalaari Capital, Ratan Tata, Mohandas Pai, 3one4 Capital, UC-RNT Fund |
3.創業の経緯、ファウンダーBIO
YOURSTORYのファウンダーMs. Shradha Sharmaは元々はCNBC TV18とThe Times of Indiaといったメディア畑でキャリアを重ね、2008年にYOURSTORYを創業しました。
「1つのプラットフォームに仲間を集め、自由な発想とビジョンを交換したい」という熱意からYOURSTORYは運営されています。YOURSTORYではスタートアップや社会起業家の「物語」に焦点があたり、その熱意・信念・事業といった内容をカバーしています。
2008年の創業以来、YOURSTORYは起業家や社会変革者のストーリーを6万件近く掲載し、5万人以上の起業家がネットワーキングや資金調達の機会にアクセスできるように支援してきました。そのため、今やインドのスタートアップ界隈の中で彼女のことを知らない人はいないというほどに知名度は上がり、YOURSTORYで掲載されることは一種の登竜門ないし誉れという評価が定着しつつあります。
(YOURSTORYファウンダーによるモディ首相独占インタビュー、YOURSTORY記事より引用)
4.過去のラウンド概要
YOURSTORYの過去のラウンドとしては以下の表となります。特筆すべきは、インドスタートアップ界の中でレジェンドと目されているラタン=タタ氏とモハンダス=パイ氏から調達していることです。ラタン=タタ氏はインドを代表する大財閥グループ、タタグループの総帥にしてエンジェル投資家としてインドでは著名です。日本でも過去に日本経済新聞の「私の履歴書」でその半生を寄稿されています。モハンダス=パイ氏はインドを代表するIT企業、インフォシスグループのCFOを長年勤めた古参メンバーであり、インディアンドリームを体現する存在としてスタートアップからの崇敬を集めています。
豪華なエンジェルに裏付けされたスタートアップ業界とのコネクションがビッグネーム(首相や閣僚級)をイベントに呼ぶことができる原動力になっているのではないかと推察できます。
【過去のラウンド表】
ラウンド名称 | 時期 | 調達金額 | 主な傘下投資家 |
シリーズA | 2015年 | 4 million USD | Kalaari Capital |
シリーズB | 2017年 | 2.6 million USD | Ratan Tata |
シリーズB | 2017年 | 6 million USD | – |
5.業界の動向、分析
業界の動向としては、「北インドのInc42」と「南インドのYOURSTORY」という形態でプレゼンスが分かれていると言われています。それだけメディアの勝ち負けがはっきりしてしまっているということの証左と言えるでしょう。しかし、メディアの歴史とコンテンツ数で言えば、YOURSTORYが一歩先に進んでいると言えるかもしれません。
【スタートアップ インドでの検索状況】Inc42とYOURSTORYで独占
6.競合との差別化ポイント
YOURSTORYが他社と差別化している点としては、その手数の多さとブランディングにあると言えるでしょう。手数に関してはメディア事業のみに依存せず、イベント・コンサルティング・情報提供という形態でマネタイズの経路を多様化させている点にあると言えるでしょう。加えて、YOURSTORYの社員自身もスタートアップに造詣が深いので、YOUTSTORYのアルムナイが各VCのコミュニティマネージャーやアソシエイト投資担当になっており、YOURSTORYによるコミュニティ掲載に一役買っています。私自身もやり取りのあるVCのインド人担当者で「僕もYOURSTORYで働いていました。」というケースをよく聞きます。
【競合との比較表】
会社名 | YOURSTORY | Inc42 | The startup Journal | TaazaTadka |
本社 | ベンガルール | グルガオン | オリッサ | アーメダバード |
創立 | 2008年 | 2014年 | 2014年 | 2015年 |
従業員数 | 440人 | 65人 | 約10人 | 不明 |
Web訪問者数(2020年8-10月) | 約1000万 | 約100万 | 不明 | 約1万 |
7.現地からの目線
この手のサービスは地場密着型になり、独自のエコシステムを形成していくのが定説と言われていますが、現状YOURSTORYはインド密着型となっていると考えられます。拡大の方向としては、このままインドで独占的なポジションを獲得するのと、インド国外のスタートアップ情報も取得して「インドー韓国」と言った連携に見えるような越境ビジネスの拡大という2つの方向性があるように見えます。
更に、COVID19 で対面イベントが全てオンラインに移行する現況においては彼らのオンライン事業も追い風になると考えられます。その一つの試金石となったのが、TECHSPARKS2020でしょう。この記事の後で特設記事として、TECHSPARKS概要&速報レポートを掲載していきます!
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