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BluSmart――インドの新興EV配車サービス

2025年1月19日

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BluSmart――インドの新興EV配車サービス

インド・バンガロールの街を歩いていると、よく見かける「BluSmart」の車。電気自動車(EV)を採用したこの配車サービスは、静かで洗練された印象を与える新しいスタートアップです。

BluSmartは、2019年にデリーで設立され、配車サービス市場のリーダー的存在であるUberやOlaに挑戦する形で急成長を遂げています。

その特徴は、品質重視、持続可能性、そして透明性。この記事では、BluSmartのユニークな価値提供、競争力、そしてこれまでの歩みについて詳しく解説します。

1.概要|BluSmartとは

BluSmartは2019年1月に設立されたインド初のオールEV配車プラットフォームです。サービスはデリーNCR地域からスタートし、2022年9月にはバンガロールでも展開を開始しました。

2022年11月時点では、デリーに約2,500台、バンガロールに約200台の車両を有していると創業者が述べています。

2023年3月には、バンガロールのケンペゴウダ国際空港に専用のピックアップゾーンを設置。この動きは、UberやOlaが独占していた市場に新しい風を吹き込むものです。(参考

主なマイルストーン

  • 2019年:デリーNCRでサービス開始
  • 2022年:バンガロールへ進出
  • 2023年:バンガロール空港で専用ピックアップゾーンを設置

2. 企業概要|BluSmart

法人名BluSmart Mobility PRIVATE LIMITED
ファウンダーAnmol SinghJaggi Punit K GoyalPuneet Singh Jaggi
HPリンクhttps://www.blu-smart.com/en-IN/
設立年度2019年
資本金
売上₹70.9Cr ($8.84M)(2023年3月時点, 参考
本社所在地Gurugram, Haryana, India
従業員数697(2024年10月時点, 参考
ミッションインドの都市部を持続可能な交通手段へと導き、効率的で、手頃で、賢く、安全で、信頼性の高いモビリティを提供すること

3. 創業の経緯、ファウンダーBIO|BluSmart

BluSmartは、インドの都市交通を根本から変革しようとすることを目的として2019年に設立されました。その背景には、創業者たちの持続可能な未来を築くという強いビジョンと、再生可能エネルギー分野での豊富な経験があります。BluSmartの成功の鍵を握る創業者たちの歩みとビジョンについて詳しく見ていきましょう。

創業メンバーとそのバックグラウンド

BluSmartの設立者は以下の3名です。

  • アンモル・シン・ジャギ(Anmol Singh Jaggi)
    再生可能エネルギー企業「Gensol Group」の創業者。2007年の設立以来、600人を超える技術者とエンジニアを抱える企業へと成長させました。彼は元々、再生可能エネルギー分野で豊富な経験を持つ実業家です。
  • プニート・シン・ジャギ(Puneet Singh Jaggi)
    インド工科大学(IIT)ルールキー校を卒業。再生可能エネルギープロジェクトの設計と実行に精通し、30GW以上の大規模なエネルギー案件にも携わっています。
  • プニット・K・ゴヤル(Punit K. Goyal)
    アストン大学で名誉博士号を取得し、ハーバード・ビジネススクールにも在籍経験を持つ国際的なビジネスリーダー。再生可能エネルギー企業PJG Clean Energyの共同創業者でもあり、数々のエネルギー関連事業を成功に導きました。

創業の動機とビジョン

インドは世界第3位の二酸化炭素排出国であり、都市部の交通渋滞と大気汚染が深刻な課題となっています。こうした状況の中で、BluSmartは「持続可能な都市交通の実現」を掲げました。創業者たちは再生可能エネルギーを活用したゼロエミッションのモビリティサービスを提供することで、都市の環境負荷を軽減し、クリーンな未来を築こうとしています。

4.過去のラウンド概要

BluSmartは、総額4億8,630万ドルにのぼる資金を過去13回の資金調達で集めてきました。直近の資金調達は2024年5月23日に行われたシリーズBラウンドです。

直近3回のラウンド

ラウンド名時期調達額リード投資家
Series BMay 23, 2024₹2B
Debt FinanceJan 29, 2024£200M
Series ADec 21, 2023$24M
Debt FinanceMay 4, 2023$5M
Series AMay 4, 2023$37M
Debt FinanceApr 29, 2023$75MPower Finance Corporation
Series AMay 24, 2022$15MBP Ventures, Green Frontier Capital
Debt FinanceMar 24, 2022$10MBlackSoil
Series ASep 30, 2021₹1.9BBP Ventures
SeedSep 7, 2020₹510M Venture Catalysts
CrunchBaseから筆者作成

5. ビジネスモデル|BluSmart

BluSmartのビジネスモデルは、B2Cモデルに基づいています。独自の「アセットライト(資産軽量化)モデル」を採用し、持続可能性を重視した事業運営を展開しています(参考)。

アセットライトアプローチ

BluSmartは自社で車両を所有せず、車両をリースする形で運営を行っています。この車両は、インド政府の公的企業であるEESL(Energy Efficiency Services Limited)や資産家から提供されています。これにより、初期投資を抑えながら、効率的な運営と持続可能性の両立を実現しています。

BluSmartの車両はすべて以下のような電動車両で構成されています。

  • Mahindra e-Verito
  • Tata e-Tigor
  • Tata Xpres-T EV
  • Hyundai Kona Electric
  • MG ZS Electric

車両の多様性により、さまざまなニーズに対応しつつ、環境に優しい交通手段を提供しています。

収益モデル

BluSmartの収益は主に以下の2つとなっています。

  1. 配車サービス
    1. BluSmartはB2Cモデルを採用しており、エンドユーザーがアプリを通じて利用する配車サービスから直接収益を得ています。料金体系は透明性を重視し、キャンセルなしや割増料金なしといった特徴で差別化を図っています。
  2. 充電サービス
    1. BluSmartは独自の充電ステーションを運営し、自社の車両向けだけでなく、他のEVオーナー向けにも充電サービスを提供することで追加収益を得ています。この充電ネットワークの拡大により、BluSmartはインドのEVインフラ市場においても重要な地位を築いています。

6. 市場動向

インドの配車市場は現在約70億ドル規模に達し、成長余地が大きい分野として注目されています。この市場ではUberやOlaが長らく支配的な存在でしたが、BluSmartのような新興企業が台頭し、競争が激化しています。BluSmartは全車両を電動化し、ゼロキャンセルや透明性のある料金体系、清潔な車両といった顧客重視のサービスで、環境意識の高い消費者や利便性を求める層から支持を集めています。

政府の政策も市場の変化を後押ししています。インド政府は2030年までに新車販売の30%をEVにする目標を掲げ、グリーンモビリティを推進しています。これにより、EV配車市場は拡大が見込まれますが、一方でEV製造業者が限られており、車両供給の遅れが大きな課題となっています。BluSmartは現在約8,000台のEVを保有し、2025年までに13,000台への増強を計画していますが、タタ・モーターズをはじめとする主要メーカーの生産能力が追いついていない状況が続いています。

一方で、UberやOlaも対抗策を打ち出しています。Uberは2026年までにタタ・モーターズから25,000台のEVを導入する予定であり、Everest Fleetなど地元のフリート運営会社との提携を進めています。OlaもEV導入を発表しましたが、現段階では試験運用に留まっています。さらに、Snap-E(コルカタ)やShoffr(バンガロール)といった地域的な競合企業も資金調達を進め、競争が一層激化しています。

EV市場の課題としては、車両の航続距離やエンジンパワーが内燃機関車に劣る点、商用EVへの補助金が不足している点が挙げられます。それでも、BluSmartは50以上の充電ハブを運営し、インフラ整備を進めることで競争力を高めています。

BluSmartの成功は、政府の支援や市場の進化に依存している部分もありますが、持続可能性と高品質サービスを軸に、UberやOlaを追随するポジションを築いています。市場全体の拡大とともに、BluSmartの動向が今後の配車市場に与える影響はますます大きくなると予想されます。(参考)(参考

7. 競合との差別化ポイント|BluSmart

BluSmartには、インドの配車市場でUberやOlaといった既存の競合が存在します(参考)。

Uber

  • Uberは2013年にインドで事業を開始し、現在ではインド全土の100以上の都市で運営されています。43%の全国市場シェアを持ち、規模と多様性で他を圧倒しています。
  • EV戦略: Uberは2040年までにグローバルで100%EV化を目指し、インドと南アジアを成長戦略の中心と位置付けています。2023年には、タタ・モーターズから25,000台のEVを導入すると発表しました。
  • 競争上の強み: Uberは、スクーターやオートリキシャなど、多様な乗車オプションを提供しており、幅広い顧客ニーズに応えています。

Ola

    • 2010年に設立されたOlaは、インド国内でUberと並ぶ主要プレーヤーとしての地位を確立しています。

    EV計画: Olaは2023年1月に10,000台のEVをプラットフォームに追加すると発表しましたが、具体的なタイムラインは明確ではありません。

    課題としては、高いキャンセル率やドライバーの報酬削減への不満が、顧客満足度とドライバー離れにつながっていることが挙げられます。

    8.筆者コメント

    BluSmartの取り組みは、単なる配車サービスの枠を超え、インドの持続可能な都市交通に対するビジョンと使命を具現化したものです。同社が掲げる「持続可能性」や「透明性」といった価値観は、単に環境負荷を軽減するだけでなく、配車業界の新たな基準を設定する挑戦でもあります。

    特に注目すべき点は、アセットライトモデルを採用している点です。車両を直接所有せずにリースによって運営することで、初期投資を抑えつつ迅速な市場拡大を実現しているのは、成熟した競争市場の中での賢い戦略といえます。また、インフラ面での自社充電ステーション運営は、収益モデルの多角化を図るとともに、EV普及を加速させる重要な要素です。

    一方、課題として、インド市場のEV供給力の限界が挙げられます。特に、車両の生産能力が追いつかない状況は、BluSmartだけでなく競合他社にとっても共通の問題です。この点で、政府の政策や自動車メーカーとの連携がより一層重要になるでしょう。また、配車サービス市場ではUberやOlaといった既存プレーヤーの影響力が依然として大きいため、顧客満足度をさらに向上させる努力が必要です。

    興味深いのは、BluSmartが「ゼロキャンセル」「透明な料金体系」といったサービス品質の向上を差別化のポイントとしていることです。インド市場では、顧客体験を軸に競争を進めることが、環境意識の高まりを背景にしたEVシフトの流れと強くリンクしています。こうした動きが他社に波及し、業界全体の進化を促す可能性があることは非常にポジティブです。

    BluSmartの成長は、インド配車市場の持続可能な未来を象徴しており、その挑戦が成功すれば、他国への展開や他産業への波及効果も期待できるでしょう。

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    記者プロフィール
    齊藤大将さん
    株式会社シュタインズ代表取締役。 情報経営イノベーション専門職大学客員教授。 エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究に従事。VR学校(私立VRC学園)やVR美術館を創作。CNETコラムニストとしてエストニアとVRに関する二つの連載を持つ。 この記者の記事一覧