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Grow Indigo――インドの農業の未来を革新

2025年3月19日

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Grow Indigo――インドの農業の未来を革新

人口増加が今後も続く中で、最も深刻な課題の一つは食糧問題です。

田畑は限られた資源。これをいかに有効活用し、作物生産を最大化するかが、未来の食料安全保障を左右する鍵となります。

世界で最も人口増加が著しいインドでは、急速に拡大する需要に対して持続可能な農業の実現が喫緊の課題となっています。今回は、こうした食糧問題に立ち向かう、インドのアグリテック企業Grow Indigoをご紹介します。

1. 概要|Grow Indigoとは

Grow Indigoは、インドを拠点に展開するアグリテックの企業です。アメリカのバイオテクノロジー企業Indigo Agと、インドの農業テクノロジー企業Mahycoの合弁事業として2018年に設立されました。この事業は、微生物技術を活用して農家の事業規模を向上させることを目的としています。

https://www.indigoag.com/pages/news/indigo-launches-grow-indigo-to-bring-microbial-technology-to-south-asian-farmers

Mahycoはアグリテック企業として既にインド国内で広範な生産者ネットワークを持ち、農家と直接つながる強みがあります。このネットワークを活用することで、Indigo Agの持つ微生物処理技術を施した種子を全国の農家に供給することが可能となりました。

この処理済み種子は、環境ストレス(干ばつや高温など)への耐性を向上させ、作物の安全性と収穫量の向上を実現します。

2. 企業概要|Grow Indigo

法人名Grow Indigo
ファウンダーIndigo AgMahyco Grow
HPリンクhttps://www.growindigo.co.in/
設立年度2018年
資本金
売上
本社所在地Mumbai, Maharashtra, India
従業員数
ミッション収穫量を増やし、持続的な農業を推進する
LinkedIn, HP等より筆者作成

3. 創業の経緯、ファウンダーBIO|Grow Indigo

2018年10月23日、Indigo AgとMahyco Growが合併事業の共同声明を発表しました。Indigo Agは、微生物の働きを農作物に応用し、農作物の収穫量を高める研究をしており、大規模農場を中心に導入されていましたが、Mahycoとのタッグにより小規模農家市場に初めて乗り出すこととなりました。

Indigo Agの生まれは人間のマイクロバイオーム(肌や腸内などの微生物コロニー)の研究にありました。人間と同じように、植物にとって有用な菌が存在し、それを殺虫剤、殺菌剤で取り除いてしまっているかもしれないという仮説から、Noubar AfeyanとGeoffrey von Maltzahnによって設立。以降微生物を用いた農作物改良の研究開発を行っています。

Mahycoは1964年から始まる、インドのアグリテック企業では先駆的な存在です。2002年には害虫に強い遺伝子を持つ”Btコットン”の種子をインドに導入しました。

Grow Indigoは、アグリテックをリードするこの2社のノウハウを融合し、インド国内での農業の持続可能性を高めるミッションに挑んでいきます。

4.過去のラウンド概要

Grow Indigoは現在シリーズAで、今まででおよそ1600万ドルを調達しています。

ラウンド名時期調達額参加投資家
Series AJan 28, 2024$8MIndigo, Mahyco
Series ADec 16, 2022$8MIndigo, Mahyco
Tracxn, CrunchBase等より筆者者癖

https://tracxn.com/d/companies/grow-indigo/__JoWj9MKaqJSEY3zbu47MRnPsxZiUuwvEbmAuGvXTcpE/funding-and-investors#summary

ビジネスモデル|Grow Indigo

Grow Indigoは、以下の事業を持ちます。

①バイオテクノロジー分野(処理種子や微生物製剤の販売)

微生物的処理をされた、通常の種子よりも生産能力が高い種子や、土壌改良のための微生物製剤、栄養剤などを販売しています。

②炭素農業プログラム

農家が、CO2を排出しない”再生可能な”農業慣行を採用することで、Grow Indigoが炭素クレジットを発行します。

農家は、この炭素クレジットを企業向けに販売でき、CO₂の削減と引き換えに追加収入を得ることができます。

このプログラムは、現代の農業によって発生するCO₂の削減を目的とするとともに、再生可能な農業慣行を再導入することで土壌の健康を改善する狙いがあります。

企業の環境意識は年々高まっており、CO₂排出の相殺を目指す企業を中心に、この炭素クレジットの需要も拡大しています。こうした流れは、Grow Indigoにとって大きな追い風となっています。

③Grow Online

「Grow Online」は、農業関連の資材を取り扱うECプラットフォームです。60以上の有名ブランドと1,000以上の農業資材・製品を提供しています。

農家はこのプラットフォームを利用することで、これまでバイヤーと直接価格交渉をしていた種子や肥料などの資材を、オンラインで簡単に購入・準備することができます。

また、このプラットフォームはバイヤー、小売業者、ナーセリー、農家をつなぎ、農作物に関わる取引を一カ所で完結できるように設計されています。

5.業界の動向・分析|現代の農業について

現在、世界的な人口増加に伴い食料需要が拡大しています。しかし、土地利用の変化や都市化の進行により、農地の確保がますます困難になっています。特に、土地の劣化や砂漠化が深刻化しており、ある報告では毎年約100万平方キロメートルの土地が劣化していると指摘されています。

https://www.theguardian.com/environment/2024/dec/01/land-degradation-expanding-by-1m-sq-km-a-year-study-shows

また、工業活動による環境汚染が気候変動を促進し、干ばつ・洪水・熱波などの異常気象の頻発を招いています。これにより農業生産に深刻な影響が及んでおり、2024年にはフランスをはじめとする多くの国で、極端な気象条件により農作物の収量が大幅に減少しました。

こうした現代農業の課題に対し、Grow Indigoは微生物技術と炭素プログラムという解決策を提案しています。

  • 微生物技術を活用した種子処理や生物製剤により、土壌の健康を改善し、劣化した土地や異常気象下でも作物の生産性を維持・向上させることができます。
  • 炭素プログラムを通じて、気候変動の緩和や異常気象の影響軽減にも貢献できます。

6.筆者コメント

ここまで”Grow Indigo”について、概要を交えながらまとめてきました。

作付け面積は事実上の上限がある中で、今後も増えていく食糧需要に応えるためには、農作物の収穫効率を上げていくことが必要不可欠となります。遺伝子組み換え技術も、その必要性によって発展した側面もあるでしょう。

しかし、世間はその認識に反して”有機的”な処理を好む消費者が多いと筆者は感じています。Grow Indigoが取り組む微生物の作用による収穫量向上は、そうした消費者に対する、ある種「信用」も獲得できるものだと思います。単に食糧需要を支えるだけでなく「この農家は有機的で、安全だ」という印象を消費者に与え、農家の社会的地位を高めることにも繋がるのではないでしょうか。

持続可能な農業の実現に向けた同社の挑戦を、今後も注目していきたいと思います。

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記者プロフィール
岩本晴空さん
株式会社FUNS所属。同社にてメディアライター、webデザイン等を経験。現在はVR×地域活性を主軸にした研究コミュニティを埼玉県加須市で展開している。 この記者の記事一覧