EYによる調査レポート「Global FinTech Adoption Index 2019」によると、インドのFintechの浸透率は87%にものぼるようです。
しかし、インドには「一定金額以上の場合、口座から自動引き落としができない」というルールがあるため、原則クレジットカード料金の支払いは都度、手動で行わなくてはなりません。
CREDはクレカの支払いを一元管理でき、期日までに支払うと提携先で使えるクーポン等のリワードがもらえるというインド初のFintechサービスです。
1. サービス概要|CREDとは
CREDは、インドで生まれた「クレジットカード請求書支払いサービス」です。
2018年に創業され、創業からわずか9カ月で合計1億4,500万ドルを調達し、2021年にはユニコーンになりました。
CREDでは、複数のクレジットカードの支払い履歴・手数料などの情報を、CREDアプリから一括管理することができます。
また、クレジットカードユーザーに対し、クレジットカード決済の度に、「CREDコイン」というポイントを提供しているインドのポイ活としても有名です。
ユーザーは稼いだCREDコインを、CREDが提携するパートナー企業のサービス内で利用することが可能です。
実は、RBI(インド準備銀行)の定めにより、15,000ルピー(約2.4万円)以上のクレジットカードなどでの支払いについては、自動引き落としがされないようになっています。つまり、それぞれの支払いタイミングで手動で支払いの作業が必要なのです。
そのため、複数のクレジットカードを持っている場合は、それぞれのクレジットカード会社、あるいはクレジットカードを紐づけている銀行のアプリを開き、別々に支払いする必要があります。
CREDは、そのようなインドのクレカ決済で発生する煩雑な作業の効率化を実現したサービスです。
2. 企業概要|CRED
法人名 | CRED |
ファウンダー | Kunal Shah |
HPリンク | https://cred.club/ |
設立年度 | 2018年 |
資本金 | – |
売上 | ₹88.6 crore (US$11 million) |
本社所在地 | Bangalore, India |
従業員数 | 800人 |
ミッション | 信用力が高い人たちのコミュニティの実現 |
3. 創業の経緯、ファウンダーBIO|CREDの歴史
創業者のKunal Shahは、ムンバイにあるウィルソン大学哲学科を卒業しました。
その後、彼は NMIMS (Narsee Monjee Institute of Management Studies) でパートタイムのMBAを取得しようとしましたが、ビジネススクールで教えられていることに興味が沸かず、入学してまもなく中退します。
この頃、彼はすでにBPO (ビジネス プロセス アウトソーシング) 会社を経営していました。
2009年に、小売業者が実店舗でキャッシュバック特典を提供するためのキャッシュバック プロモーション会社PaisaBack を立ち上げます。インドでは市場が細分化されており、2010年8月には、Sandeep Tandonと一緒にFreeCharge を開始しました。Sandeep Tandon は当初、モバイルのプリペイドリチャージに注力していました。
過去Freechargeというインドのモバイルペイメントサービスで、大きな実績を作ったことが、CREDがシードで3,000万ドルも調達していたり、現在急速に投資が集中している要因とも言えるでしょう。
彼らは 2015年にFreeChargeをSnapdeal に売却。それ以降は、Y Combinator、Bennett Coleman and Co Limited、Sequoia Capital India の諮問委員会になっています。
また、CREDの創設者であるKunal Shahは、スタートアップエコシステムで有名な人物であり、すでに多くのスタートアップに資金を提供しています。
4.ビジネスモデル|CRED
CREDの収益モデルは2つあります。
まず、CREDコインというポイ活システムのおかげで、CREDのユーザーはパートナー企業のサービスを利用するため、その販売促進効果をtoB向けサービスとして収益化を行なっています。
既にAirbnbやUberEatsと提携しているほか、インド国内の有名企業らとタッグを組んでいる。
ユーザーが提携企業のサービスを利用するたびに、CREDはそれを通じて収入を生み出しています。
もう一つは、ユーザーの財務データの使用です。
CREDは、プラットフォームを使用して、請求書などを支払うユーザーから財務データを蓄積しています。これらのデータを使用してユーザーにより多くの他社サービスを紹介するだけでなく、これらのデータへのアクセスに対して他の銀行や金融機関も料金を支払います。 企業、銀行、および金融機関は、最終的に、潜在的な顧客に、彼らの好みに合わせた独自の製品セットを提供することができるので、データの利用も一つのキャッシュポイントとなっています。
過去のラウンド概要|Lenskarの調達情報
時期 | 調達額 | 調達ラウンド | 投資家 |
2022年6月9日 | $80 million | シリーズF | GIC, Sofina, Alpha Wave and DF International |
2022年4月8日 | $200 million | Venture Round | GIC |
2021年10月19日 | $251 million | シリーズE | Tiger GLobal and Falcon Edge |
2021年4月6日 | $215 million | シリーズD | Coatue, Falcon Edge Capital and others |
2020年11月30日 | $81 million | シリーズC | DST Global |
2019年7月26日 | $120 million | シリーズB | Gemini Investments, Ribbit Capital and Sequoia Capital India |
2019年4月16日 | $24 million | シリーズA | – |
2018年11月6日 | $30 million | シード | Sequoia Capital Indial |
5.業界の動向、分析|CRED
CREDはインドのクレカ決済にフォーカスしたサービスですが、インドでのクレジットカードの利用者の割合はインドの人口の約4%程度です。
また、インドでクレジットカードを作るには、信用調査機関が算出し個々人に付与されているCibil Scoreという信用スコアが一定程度ないとクレジットカードを作ることができません。
インドの人口の4%のクレジットカード保有者の中から、さらにこの信用スコアが750点以上ないと利用できないので、一部の富裕層向けのアプリということになります。
6.競合との差別化ポイント|CREDの特徴
CREDの最大の競合相手は、Paytm、PhonePe、Google Pay、Amazon Pay、MobiKwikです。
PaytmはCREDの最大の競合です。Paytmは別の記事ですでに紹介していますので、まだ読んでない方は、ぜひ読んでみてください。
Paytmは、インドのウッタル プラデーシュ州ノイダに本社を置き、2010 年に設立されたインドの大手フィンテック企業です。
PhonePeは、Cred のもう1つの注目すべき競争相手です。同社は、2015年に設立されたインドのバンガロールに本社を置くデジタル決済会社でもあります。このアプリは、2021年7月の時点で 46.04% の最大の市場シェアを持っています。
また、Google PayやAmazon Payといった海外のメガ企業のインド市場への参入も、CREDと競合するでしょう。
MobiKwikは、インドのデジタル決済オプションをサポートしていると同時に、CREDのライバルでもあるフィンテック企業です。同社はインドのハリヤナ州グルグラムにあり、2009 年に設立されました。
競合との差別化ポイントとしては、CREDがインド特有のクレカ決済にフォーカスして開発されたところでしょう。複数のクレカ決済を一元管理できる点や、利用することでポイントが溜まっていく仕組みは、ユーザーの大きなインセンティブになっています。
CREDさえ見ておけば、アプリやサイトからバラバラ支払う手間を省くことができます。また、水道光熱費や通信費の支払いもCREDから実施できるので、インドの人々の生活に寄り添ったサービスという点が差別化に繋がっていると言えます。
7.筆者コメント
ここまでCREDのサービス、業界動向についてまとめてきましたが、筆者の見解としては以下となります。
■CREDアプリを使えるのはごく一部の富裕層に限るという難点
前述したように、インドで発行されているクレジットカードは、約6,000万枚です。これは、インドの人口の4%程度に相当します。
CREDは現在クレジットカードの支払いがメイン機能のサービスです。
しかし、インドでクレジットカードを作るには、信用調査機関が算出し個々人に付与されているCibil Scoreという信用スコアが一定程度ないとクレジットカードを作ることができませんが、そもそもクレジットスコアすら持っていない人々も一定数インドにはいるのが現状です。
創業者が目指しているのは、「信用力が高い人のコミュニティ」なので、その点では、実現したい未来と、方向性は間違っていないのかもしれません。
今後、信用情報を分析してユーザー層拡大をしてアプリの普及の底上げをするのか、あくまで富裕層向けのサービスとして伸ばしていくのか、今後の動向も気になります。