ファストファッションの台頭により、現代の若者は手頃な価格で最新の流行を抑えることができるようになりました。その一方で、ファストファッションブランドの生産工場における人権問題や環境汚染問題が多くのメディアで取り上げられ、批判されています。消費者のサステナビリティ志向の高まりはここ近年でピークを迎えているでしょう。
中古アパレル市場は、そんな消費者達の煽りを受けここ数年で大きく市場規模を伸ばしています。Vintedは、そんな市場の追い風を受け急成長を遂げているファッションリセール特化のマーケットプレイスです。
1. 概要|Vintedとは
Vintedは、リトアニアのヴィリニュスに本社を置くECサイト運営企業です。2019年時点で評価額は11億ドルを超え、ユニコーン企業の一社として名を連ねています。
彼らが運営するECサイト「Vinted」は、最大規模の中古アパレル特化マーケットです。ユーザーが身に着けなくなった服やアクセサリーを、Vintedを通して別のユーザーに販売することができます。多くのECサイトと差別化差別化されている点として、Vintedはあくまで「アパレル」に特化していることが挙げられます。彼らは消費者の新たなファーストチョイスとして古着という選択肢を増やしたい、というポリシーを掲げ、人々にファッションリセールの文化を広め続けています。
2. 企業概要|Vinted
法人名 | Vinted |
ファウンダー | Milda MitkuteJustas Janauskas |
HPリンク | https://www.vinted.com/ |
設立年度 | 2008年 |
資本金 | – |
売上 | – |
本社所在地 | Vilnius, Lithuania |
従業員数 | 350人 |
ミッション | 古着を消費者のファーストチョイスに |
3. 創業の経緯、ファウンダーBIO|Vintedの歴史
Vintedの始まりは2008年、同社のファウンダーMildaが、Justasにある相談をしたことに端を発します。Mildaは当時引越しを計画していましたが、クローゼットの中にもう着ることがない大量の衣服が眠っていました。彼女は買い物依存症でした。
Mildaは服への執着を断ち切るためにどうにかしてその衣服たちをして処分したいと考え、現在のVintedのアイデアを思いつきました。当時はECサイトに関する知識がなかったMildaは、テクノロジーに詳しいJustasにサイトの構築について相談し、彼の協力のもとVintedがインターネット上に誕生しました。
サービス企画当初はマーケティングにまで手が回らず、彼らは、友人にプロモーションの協力を仰ぎました。ローンチから 2 時間後にはラジオやメディアのインタビューの依頼が届き、さらにその数が次々増えていくと、Mildaは驚いたといいます。こうしてVintedは、リトアニアで爆発的にヒットすることとなりました。
4.ビジネスモデル|Vinted
Vintedは、非常にシンプルなCtoCマーケットプラットフォームの形を取っています。ユーザーが別のユーザーに自分の衣服、アクセサリーを販売し、プラットフォームであるVintedが配送管理をし、ユーザーに商品を届けます。
Vinted独自の点として、販売するユーザーから手数料を取らないということが挙げられます。ユーザーは手数料を取られることなく、ECサイトの額面通りの売上を受け取ることができるのです。これにより、ユーザーが金銭的損失を感じることを限りなく低減し、Mildaと同じような人が気兼ねなく服を手放すことができるようになります。
Vintedは販売側のユーザーから手数料を取る代わりに、購入者から少額の”バイヤープロテクションフィー”を徴収することでそのビジネスモデルを成立させています。この手数料システムはVintedの直接的な収益になると共に、購入側ユーザーに対して取引の安全性をアピールする要素にもなります。
5.競合との差別化ポイント|Vinted
中古アパレル市場は現在、ブームに沸くと共に「高級志向」化が見られるようになりました。本来の市場の意義である「もう着なくなった服を手放し、知らない誰かに着てもらう」ことから離れ、新品を買いだめして中古市場で売るという”ビジネスチャンス”に気付いた人々がこぞってフリマアプリなどECサイトに乗り込み、結果的に市場の値上がりを引き起こしたのです。
Vintedは単なる取引プラットフォームでなく、ファッションに関心のある人々のコミュニティとしての側面を強調することで、この市場の変化から逃れることに成功しました。Vintedのユーザーは自分のファッションスタイルやアイデアを他のユーザーにアピールすることができ、ユーザー同士でファッションセンスを磨きあうことができます。もしそうした人々の元にビジネス目的で高額転売を行うユーザーが現れても、彼らは見向きもしないでしょう。最終的にこのプラットフォームに残るのは、真にファッションに興味がある人たちだけです。
手頃な価格での取引を守ることで、eBayなど”ビジネスマン”が多く存在するプラットフォームと大きく差別化を図ることができたのです。
6.筆者コメント
ここまで、ユニコーン企業”Vinted”について、サービス概要を交えながらまとめてきました。調査をした上での筆者の見解は以下となります。
・中古アパレル市場の”不可侵領域”となりえる存在
フリーマーケット方式のCtoCマーケットプラットフォームは、往々にして”ビジネスマン”の温床になりがちです。「せどり」と呼ばれる彼らのビジネスは、中古アパレル市場のみならず、新品アパレルの価格も破壊しかねません。
Vintedは、そのビジョンと彼らのコミュニティによって市場価格の崩壊を回避し、中古市場の質を維持することに成功した代表的なモデルでしょう。儲けるためだけの人がVintedに定着することはなく、自分のファッションをさらに洗練させたい人がVintedに定着します。
中古市場に限らず、このようなCtoCマーケットプラットフォームは、ユーザー同士や、ユーザーとプロバイダーを取り巻くある種のカルチャーが重要になってくるのではないでしょうか。カルチャーを破壊され、一度でも利益追求的な取引をされたプラットフォームは、次第に”ビジネスマン”に浸食されていくのだと思います。CtoCマーケットプラットフォームを評価する際は、ユーザー間や、ユーザー-プロバイダー間を取り巻く”カルチャー”にも注目していきたいものです。