モノの流通が発達した現在、数々の商品たちがすぐに、時にはその日のうちに注文者の元へと届きます。これはひとえに現在まで発展してきた物流・交通網の賜物でしょう。
しかしその物流網の裏にはいくつかの課題も存在しています。労働時間と、交通です。ECでの消費がさらに拡大していくであろう将来を眼前として、運送従事者や交通網のキャパシティは限界を迎えようとしています。そうした問題に一石を投じたのが、エストニアのスタートアップ、Starship Technologiesです。
1. 概要|Starship Technologiesとは
Starship Technologiesは、エストニアに拠点を置くロボット開発企業です。
2022年には、1億ドルの調達を含むシリーズBラウンドを表明。それ以前にも何度か大型の資金調達に成功している、エストニア指折りのユニコーン企業です。直近の2023年6月には、同じくユニコーン企業であるBoltとの提携がスタートしました。
彼らが作るロボットの名は”Starship”。宇宙船との名を冠するこのロボットは、半径3㎞の範囲で自由に移動、物を運ぶことができる自律運搬・宅配ロボットです。利用者は、アプリからお店に注文情報と受取場所を送信し、それを受けたStarshipは商品を取りに行き、あらかじめ指定した受取場所まで運びます。また、商品を入れるスペースは施錠し、注文者のみが開けられる機構を搭載することで、盗難対策を行っています。
Starshipは2018年の本格サービス開始から順調に利用者を伸ばしており、現在では100を超える都市に展開され、500万回以上もの配達に成功しています。
2. 企業概要|Starship Technologies
法人名 | Starship Technologies |
ファウンダー | Ahti HeinlaJanus Friis |
HPリンク | https://www.starship.xyz/ |
設立年度 | 2014年 |
資本金 | – |
売上 | – |
本社所在地 | San Francisco |
従業員数 | – |
ミッション | 人々の生活をより簡単に、便利に |
3. 創業の経緯、ファウンダーBIO|Starship Technologiesの歴史
Starship Technologiesの生みの親はAhti HeinlaとJanus Friis。彼らはSkypeの共同創業者でもあり、筋金入りのイノベイターです。Starshipは、彼らとエンジニア達が集まって、ハッカソン的にアイデアが創られました。そして会社設立から1か月と短い期間で実証実験に着手。およそ1年後にはステルスモードでのローンチが始まりました。
Starshipには、その前身とも呼べるロボットが存在します。その名はKuukulgur。これはエストニアのエンジニアであるTõnu Samuelによって、彼が持つ月面や火星の探査ローバー開発の知見を元に生み出されました。このKuukulgurの使い道を起業家やエンジニア達が考え、その結果自動配送ロボットに繋がったそうです。
小さなアイデアの種から起業家とエンジニアがタッグを組んでそれを育て、大きなイノベーションに繋げていく。このStarship誕生の経緯は、エストニアのスタートアップシーンの特徴が大きく現れている例だと筆者は感じます。
4.業界の動向・分析|Starship Technologies
Starship Technologiesは、2つのトピックと大きな関わりがあります。「自動運転技術」と「物流インフラ」です。どちらも人類の生活をより豊かにするために多くの企業や団体が研究開発に参画している分野かと思います。
自動運転技術は、昨今目覚ましい進化を遂げています。日本でも既に公道での実証実験が幾度も行われており、人類がハンドルを手放す日に向け研究が進められています。
米国自動車技術者協会では自動運転の技術を0から5のレベルに分けて評価しています。多くの実証実験では「特定の場所で自動運転が可能だが、必要に応じてドライバーが操作する」レベル3であるのに対し、Starshipは「特定の場所で自動運転が可能で、ドライバーの介入は不要」であるレベル4を、ミニマムな形で実現していると言えます。
Starshipは物流インフラにも大きなインパクトを与えました。これまでの物流=労働者というイメージをひっくり返し、労働者(=運転者)がいなくとも物を運ぶことができることを示したのです。これはトラックからの労働者の解放、または物流からのトラックの解放と言えるかもしれません。世界中の交通事情や労働事情が改善していく一つの足がかりが、物流インフラのイノベーションだと筆者は考えています。
5.競合との差別化ポイント|Starship Technologies
しかし同様のサービスは、様々な場所で考えられ、開発されています。
アメリカスタートアップのNuroは感染症対策の一環として、スタジアムやイベントセンターなどの代替医療施設に無人宅配ロボット「R2」を提供し、医薬品や食料品などの配送を行いました。大手薬局チェーンと提携を結ぶなど、積極的な医療連携を行っています。
Amazonは2019年1月に自社開発した宅配ロボット「Amazon Scout」の実証実験に着手しました。実証実験のエリアは徐々に広がっており、本格始動も近いかと思います。大手ECの参入は、Starshipにとって脅威となるでしょう。
しかし同様の宅配ロボットと比較して、Starshipは先駆者としての技術的信頼性とネームバリューを持っています。これは他社に対して大きなアドバンテージなのではないでしょうか。また2023年からは、上記でも述べたようにBoltとの提携もスタートしています。Uberと双璧をなすモビリティ・フードデリバリー企業とタッグを組むことで、より多種多様な配送ニーズに応えられるようになることも、Starship Technologiesにとって大きな追い風になるでしょう。
6.筆者コメント
ここまで、エストニアスタートアップ”Starship Technologies”について、サービス概要を交えながらまとめてきました。調査をした上での筆者の見解は以下となります。
・配送の新常識を世間に知らしめるサービス
上記でも述べた通り、物流とは労働者ありき、というのが今までの世間の共通認識だったかと思います。しかしその認識は、多くの技術革新の末に揺らぎ始めています。新たな物流は、人の手に依らない安定的なものへとシフトしていくでしょう。
Starshipのような配送ロボットの技術は、トラック運転手の労働問題、交通の問題といった、今まで物流と深く関わりのあった問題に対する、人類が今出せる一番最良の回答ではないかと筆者は考えます。
こうした、人々の問題をIoTを用いて解決する企業は、Starship Technologies以外にも数多くあります。IoTでできることもどんどん増えていっています。次は誰のどの問題が、どのような手段で解決されるのか。テクノロジーのスタートアップシーンからは、一時も目が離せません。