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インドEdtechの皇帝、BYJU’S:海外ユニコーンレポート

2021年1月12日

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インドEdtechの皇帝、BYJU’S:海外ユニコーンレポート

0.イントロ

Edtech(Edutech)は教育(Education)×技術(Technology)を掛け合わせた造語です。テクロノジーによってイノベーションが生まれ、その結果として教育環境が発展し、教育内容も向上して教育全体の質が良くなっていくことがその目的となっています。

Edtechの先行事例として、いつでもどこでも授業を受講できるe-Learningがありますが、現在のEdtechではAIや機械学習を用いて教育内容を個人別にカスタマイズしたり、教育者向けにマニュアルを平準化できるもの等、多種多様なものが存在します。

特に先進国新興国問わず、教育格差は深刻な状態です。

今回はそんなEdtechの中でもデカコーン(評価額100億ドル超の巨大未上場企業、日本経済新聞「今日のことば」より参照)と目される、インドのEdtech企業のBYJU’S(バイジューズ)を紹介します。

BYJU’Sホームページより引用)

1.サービス概要

BYJU’Sはオンライン学習プラットフォームを運営し、関連するモバイルアプリも開発しており、学生向けの学習プログラムを提供しています。また、試験対策クラスも提供しています。このプラットフォームは、オリジナルコンテンツ、視聴学習動画、豊富なアニメーション(ディズニーと提携したオリジナルコンテンツ)、双方向的な質疑応答セッションなどで構成されています。

BYJU’Sのサービス概要は以下の流れとなっており、コース買い切り型のモデルが主となっています。(フリーの物も存在します。)コース購入後、オンラインでコースを受講していく中で確認テスト、模試、質疑応答を通じて生徒個々人の癖や理解度の深度を測定して、個々に合わせたカリキュラムをオーダーメイドで提案しています。

更に強いのが、低学年から政府向け試験まで幅広くカバーしているので、低学年から学習を始めた生徒が卒業に至るまで継続的にサービスを受講すれば、マネタイズポイントを複数回設定することが可能となります。

BYJU’Sホームページより筆者作成

図 BYJU’S サービスモデル

以下は創業者Mr. Byjuによる「立方根の求め方」の動画(7分)抜粋です。この動画では6桁の数値の平方根を求めよという問題に対してMr. Byjuが数字列を2グループに分けて1から9の平方根と照らし合わせて規則性を見出していけば簡単に平方根は出せるというものです。重視すべき点が可視化されており、極めてわかりやすいです。

BYJU’SYOUTUBEチャンネルより引用

世界基準に合う学習体験を学生へ提供するBYJU’Sのプログラムは、学習を文脈に沿った視覚的なものにしています。アプリは、学習のペース、規模、スタイルに応じて、あらゆる学生の学習スタイルに適応するように設計されています。BYJU’Sは、モバイル、双方向的なコンテンツ、パーソナライズされた学習方法論を融合して、地理的な制約にとらわれない新しい時代の学習ツールへの道を切り開いています。

2.企業概要(基本情報2021年1月12日時点)

法人名Think and Learn Private Limited
ファウンダーByju RaveendranDivya Gokulnath
HPリンクhttps://byjus.com/ 
設立年度2008年
資本金
売上280億ルピー(約400億円)(2019)
本社所在地ベンガルール、インド
従業員数約3,200人
主要投資家一覧Lightspeed Venture Partners, Qatar Investment Authority, Tiger Global Management, General Atlantic, Yuri Milner, Sofina, Tencent Holdings, Tiger Global, Naspers, Verlinvest, Aarin Capital, Owl Ventures, Times Internet, Canada Pension Plan Investment Board, Chan Zuckerberg Initiative, Lightspeed Venture Partners India, IFC Venture Capital Group, Sequoia Capital India, Lightspeed India Partners, Silver Lake
ミッション世界の教育にイノベーションをもたらし、世界中の学習ニーズに生涯役立つプラットフォーム上で、テクノロジーと多様なコンテンツフォーマットを活用した真にパーソナライズされた適応型学習を実現すること。
BYJU’Sホームページ、リンクトインCraftより筆者作成

3.創業の経緯・ファウンダーBIO

創業者Mr. Byjuの名前をプロダクト名として冠するBYJU’S、その創業のきっかけはひょんなことからでした。創業者のByjuはケララ州の農村出身で元々はエンジニアでした。たまたま、海外プロジェクト終わりで休暇を取っていた際に友人にCAT(インド大学院共通試験)の手伝いをして彼も受けたところByjuも受かり、その後何人かの友人を指導するようになり、準備無しでCATとIIM(インド経営大学院)の面接も受けたらまた受かりました。(ストーリー参照先はこちら

このため、CAT試験の指導法で何か事業ができるのではないかと考えたByjuは起業を決意し、まずはオフラインでの対面事業で生徒数を増やしていきました。ただ、生徒数が増えるにつれて品質を維持して結果を出すことが求められていきました。当時は、大人数の教室があるオフライン形式でも、双方向な指導は時間的にも不可能でした。

そのため、大人数の生徒に対して双方向ではなく、学生がどのような疑問を抱くかを予測するという手法が生み出され、講義内容を視覚化、概念化して生徒に伝えていく方法が確立されていったのでした。そのため、講義内容を視覚化し、概念化することがBYJU’Sの強みとなりました。

オフラインの対面授業に加えて、Byjuはオンラインでもサービスの整備を進め、まずはビデオ講義から入り、そしてスマートフォンの普及に伴いモバイルでも受講できるプログラムの開発を進め、小学生向けのコースから政府試験受験のコースまで多岐に渡るラインナップとなったのです。(BBCによるインタビューより参照)

4.過去のラウンド概要

BYJU’Sの過去ラウンドは以下表のようになります。2018年と2020年のラウンドで大型調達を実施しています。ラウンド参加のファンド属性をみると、中国のテンセント、カタール、カナダの投資ファンドと多岐多様な国籍のファンドから調達していることがうかがえます。日本からの投資は直接的にはなさそうです。

【BYJU’S調達ラウンド表】

 https://craft.co/byju-s/funding-rounds より筆者作成

【調達額推移グラフ】

 https://craft.co/byju-s/funding-rounds より筆者作成

5.業界の動向、市場分析

インドのEdtech業界もオンライン教育成長動向に合わせて加速度的な成長を続けており、2022年までには、35億ドルの市場になると予想されています(Redseer調べによる)。プレイヤー数としては、6000社に迫る5838社がEdtechスタートアップとしてインドに存在すると言われています(TRCXNでの登録数ベース

更に、以下のtechnavioレポートによれば、2024年までにインドのオンライン教育市場は約143億ドルの市場になると算出されています。以下が簡単な概略図となりますが、年平均成長率は21%になり、2020年の成長率は19%になると見込まれています。

Online Education Market In India 2020-2024 | Increased Penetration of Internet and Smartphones to Boost Market Growth | Technavio | Business Wire より引用

この背景としては、人口爆発が起き、若年人口が人口の半数を占めるインドにおいては受験戦争が苛烈です。例えば、インド最高峰のインド工科大学院にはその少ない定員枠めがけて数百万人が殺到します。日印を比べてみると、同じ政治経済学部でも、早稲田大学では通過率6%なのに対して、インド工科大学院の同じ社会科学系学部ではなんと通過率0.1%と苛烈な競争が展開されています。

このような状況下の中で、受験がうまくいくことは子供の栄転を約束することにもなり、事実、良い大学へ行けば官公庁や大手企業への就職も円滑になるというデータもあります。それゆえ、教育への投資はやまず、教育業界は伸び続けていくことが想定されます。

動向としては、BYJU’Sを筆頭としたオンライン教育プラットフォームがメインであり、大都市圏を中心としてシェアを巡ってしのぎを削る展開となっています。

こちらはNASSCOMによるEdtechの業界マップですが、オンライン教育プラットフォームを中心に業界が形成されていることが分かります。ここでの、K12は幼稚園から高校卒業までの教育期間を指し、ERP+LMSは教育管理システムを指します。

The Edtech Story #1: The Edtech Landscape: A brief Overview – NASSCOM Community |The Official Community of Indian IT Industry より引用

6.競合との差別化ポイント

BYJU’Sとその競合をまとめた表は以下となります。BYJU’Sが圧倒的であることが一目瞭然です。

【BYJU’S競合比較表】

https://craft.co/byju-s/competitors より参照、筆者表作成

サービス面で見ても、他社は高校生、大学試験対策までの範囲しかカバーできていませんが、BYJU’Sは大学入試、政府向け試験、銀行向け試験と幅広くカバーできており、プログラム数では他の追随を許さない状態となっています。

加えて、その講義内容も極限までビジュアル化され、誰がどう見ても理解しやすいような内容となっており、かつコンパクトなのでリピートもしやすい内容となっています。

しかしながら、新興含め、BYJU’Sを追いかける形で資金調達ラウンドを刻んでいるスタートアップもまだまだあり、BYJU’Sがインドにおいて完全勝利!というわけにはまだ言い切れなさそうです。

【直近で調達ラウンドを実施したインドのEdtechスタートアップとその調達金額】

■Unacademy(調達金額不明):2020年11月実施。バリュエーションは20億ドルへ到達。Tiger GlobalとDragoneerが参加。

■Kyt(シリーズA,500万米ドル):2021年1月実施。参加投資家は、Alpha Wave Incubation (AWI), Sequoia Capital India’s Surge, January Capital, Titan Capitalや複数のエンジェル投資家。

7.現地からの目線 

ここまでBYJU’Sのサービス、業界動向についてまとめてきましたが、筆者の見解としては以下となります。

■インドでの独走態勢はこのまま続く。

BYJU’Sはインドでは約6400万人の登録ユーザー数を持っていますが、20代から10代の人口が約半数を占めるインドではまだまだ拡大の余地があるといえます。しかし、都市部から離れて農村部に行けば行くほど、教育に投資できない貧困層が目立ってくる事実もありますので、BOP向けプロダクトをどこまで準備するのかは疑問です。インドの中規模都市を全て抑えて農村部とのビジネスは分けて拡散するような展開も予想できます。

■恐らく買収戦略をとって海外展開するだろうが、買収先の選定を誤らなければ順調に拡大できる。

BYJU’Sのオンラインプラットフォームは強固です。しかし、日本のように語学バリアが強くかつ、受験文化が特異なマーケットではローカライズが難しくなると予想されます。となると、非英語圏では時間の節約のために買収も考えられます。英語圏でも試験内容の特異性に応じて買収してローカライズまでの時間を節約する手法が考えられるでしょう。

■生涯教育分野まで進出すれば先進国でも浸透できる。

BYJU’Sのラインナップをみて感じたのが、若手社会人向けや既卒向けのコンテンツがない点です。インドではまだそこまで求められていないのでないのも当然かもしれませんが、先進国ではリカレントや生涯教育、若手社会人向け教育コンテンツが拡充されつつあります。BYJU’Sも中高生向けのコンテンツから大人向けのコンテンツまでその裾野を広げれば更なるマーケット拡大が想定できるのではないでしょうか。

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